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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

消費者契約法の改正について

はじめに

 

 平成19年6月7日から、消費者契約法の改正法が施行されます。消費者契約法は、建物賃貸借においては、原状回復に関する特約の有効性や、敷き引き特約の有効性をめぐって、判例上これまで大いに猛威を振るってきました。
 このため、消費者契約法が今回改正されたことにより、それが賃貸借の実務においてもどのような影響を及ぼすのかについては、重大な関心を払わずにはいられません。そこで、今回は、どのような点が改正されたのかについて説明したいと思います。

消費者契約法の改正の趣旨


 消費者契約法の改正の趣旨は、次の点があります。

1消費者契約に関連した被害は、同種の被害が多数発生すること。

2被害を受けた消費者については消費者契約法により個別的・事後的に救済することはできるが、同種の被害の広がりを防止することは困難であること。


3消費者被害の発生・拡大を防止するため、事業者の不当行為自体を抑止する方策が必要であること。

4消費者全体の利益を守るため、一定の消費者団体に、事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める制度(消費者団体訴訟制度)を早期に導入することが必要あること。

5こうした制度は、我が国に先駆け、EU諸国において広く導入されており、我が国でも導入する必要があること。
 

改正の内容


 以上の改正の趣旨を実現するために改正法では、以下のとおり適格消費者団体の制度が定められました。

(1) 差止請求権
1適格消費者団体は、事業者等が不特定かつ多数の消費者に対して、消費者契約法第4条に規定する勧誘行為又は同法第8条から第10 条までに規定する契約条項を含む契約の締結の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該行為の差止請求をすることができる。

2差止請求は、当該適格消費者団体若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該事業者等に損害を加えることを目的とする場合にはすることができない。

3差止請求は、他の適格消費者団体による差止請求に係る訴訟等につき既に確定判決等(確定判決及び確定判決と同一の効力を有するものをいう。)が存する場合において、請求内容及び相手方である事業者等が同一である場合には、することができない。ただし、次の場合を除く。

I 既に存する確定判決等に次のような事情がある場合
イ.訴えを却下した場合及び上記2に該当することのみを理由として請求を棄却した場合
ロ.当該確定判決等に係る訴訟等の手続に関し、事業者と通謀して請求の放棄又は不特定かつ多数の消費者の利益を害する内容の和解をしたとき、その他不特定かつ多数の消費者の利益に著しく反する訴訟等の追行を行ったとして、当該確定判決等の当事者である適格消費者団体の適格性の認定が取り消された場合

II 当該差止請求(後訴)が、確定判決に係る訴訟の口頭弁論の終結後又は確定判決と同一の効力を有するものの成立後に生じた事由に基づくものである場合

(2) 適格消費者団体


1適格消費者団体の認定等

I 適格消費者団体の認定
 差止請求関係業務を行おうとする者は、内閣総理大臣の認定を受けなければならない。

II 認定の要件
 内閣総理大臣は、申請をした者が次に掲げる要件のすべてに適合しているときに限り、その認定をすることができる。

・特定非営利活動法人又は民法第三十四条に規定する法人であること。
・不特定かつ多数の消費者の利益擁護を図るための活動を行うことを主たる目的とし、現にその活動を相当期間にわたり継続して適正に行っていると認められること。
・差止請求関係業務の実施に係る組織、業務の実施の方法、業務に関して知り得た情報の管理及び秘密の保持の方法その他の差止請求関係業務を適正に遂行するための体制及び業務規程が適切に整備されていること。
・差止請求関係業務の執行決定機関として理事会が置かれ、決定方法が適正であること。
・理事に占める特定の事業者の関係者又は同一業種の関係者の割合が、それぞれ3分の1又は2分の1を超えていないこと。
・差止請求に係る検討部門において、専門委員(消費生活に関する専門家、法律に関する専門家)が助言し意見を述べる体制が整備されていること。
・差止請求関係業務を適正に遂行するに足りる経理的基礎を有すること。
・差止請求関係業務以外の業務を行う場合には、差止請求関係業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。

III 業務規程
・業務規程には、差止請求関係業務の実施方法、情報管理及び秘密保持の方法等が定められていなければならない。

IV 欠格事由
・暴力団員等がその事業活動を支配する法人、暴力団員等をその業務に従事させ、又はその業務の補助者として使用するおそれのある法人

・政治団体(政治資金規正法第3条第1項に規定する政治団体) 等

V 認定の申請、申請に関する公告・縦覧等
・適格消費者団体の認定を受けようとする者は、名称及び住所、法人の社員数等所定の事項を記載した申請書等を、内閣総理大臣に提出しなければならない。
・内閣総理大臣は申請書類等を公告・縦覧に供するとともに、必要に応じ警察庁長官の意見を聴取。

VI 認定の有効期間等

認定の有効期間は、当該認定の日から起算して三年とする。

2差止請求関係業務等

I 差止請求権の行使等

・適格消費者団体は、不特定かつ多数の消費者の利益のために、差止請求権を適切に行使しなければならず、それを濫用してはならない。
・適格消費者団体は、事案の性質に応じて他の適格消費者団体と共同して差止請求権を行使するほか、差止請求関係業務について相互に連携を図りながら協力するように努めなければならない。
・適格消費者団体は差止請求に関する所定の手続に係る行為について、電磁的方法等により、他の適格消費者団体に通知し、内閣総理大臣に報告しなければならない。

II 財産上の利益の受領の禁止等
 適格消費者団体は、訴訟費用、間接強制金等を除き、差止請求に係る相手方から、その差止請求権の行使に関し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、金銭その他の財産上の利益を受けてはならない。

3監督

I 財務諸表等の作成、備置き、閲覧等・提出等

・適格消費者団体の事務所には、財務諸表等、寄附金に関する事項等を記載した書類等、所定の書類を備え置かなければならない。
・適格消費者団体は、毎事業年度、その業務がこの法律の規定に従い適正に遂行されているかどうかについて、必要な学識経験を有する者の調査を受けなければならない。

II 報告・立入検査、適合命令・改善命令

III 認定の取消し等
 内閣総理大臣は、適格消費者団体について、次のいずれかに掲げる事由があるときは、認定を取り消すことができる。

・認定要件のいずれかに適合しなくなったとき
・欠格事由のいずれかに該当するに至ったとき 等

4 補則

I 規律

・適格消費者団体は、これを政党又は政治的目的のために利用してはならない。

II 判決等に関する情報の公表

・内閣総理大臣は、インターネットの利用等により、速やかに、判決、裁判外の和解の概要等を公表する。このほか、内閣総理大臣は、差止請求関係業務に関する情報を広く国民に提供する。

III 適格消費者団体への協力等

・国民生活センター及び地方公共団体は、適格消費者団体の求めに応じ、必要な限度において、消費生活相談に関する情報を提供することができる。

(3) 訴訟手続等の特例

1書面による事前の請求
 適格消費者団体は、被告となるべき事業者等に対し、あらかじめ、請求の要旨及び紛争の要点等を記載した書面により差止請求をし、その到達時から一週間経過後でなければ、差止めの訴えを提起することができない(事業者等がその差止請求を拒んだときは、この限りでない。)。

2管轄
・被告事業者の本店所在地等
・実体を伴う営業所等所在地(民事訴訟法第5条第5号)
・第12 条第1項から第4項まで(1頁の「1.差止請求権1」)に規定する事業者等の行為があった地

3移送
 裁判所は、他の裁判所に同一又は同種の行為の差止請求に係る訴訟が係属している場合には、当事者の所在地、証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、当該他の裁判所又は他の管轄裁判所に移送することができる。

4弁論等の併合
 請求内容及び相手方事業者等が同一である差止請求に係る訴訟が同一の裁判所に数個同時に係属するときは、その弁論及び裁判は、併合してしなければならない。ただし、著しく不相当であると認めるときは、この限りでない。
 

今後予想される状況


 消費者契約の改正法の施行により、今後建物賃貸借の実務において予想される事態としては、これまで、賃借人が賃貸人に対して個人で行っていた敷金返還請求訴訟を行う代わりに、適格消費者団体が賃貸事業者に対して原状回復特約等消費者契約法上無効と判断される可能性のある賃貸借契約の特約の差し止め請求を行ってくる可能性があります。

 そして、適格消費者団体から事前の書面による差し止め請求に応じない賃貸事業者に対しては、更に、当該適格消費者団体は差し止め訴訟を提起することが認められます。そして、差し止め訴訟の内容は、他の適格消費者団体にも伝えられ、当該差止め訴訟の結果は他の適格消費者団体と統一的に取り扱われることとなります。

 したがって、今後は、原状回復に関する特約や、敷き引き特約については消費者契約法の改正法の施行後は、従来通りの敷金返還請求訴訟の対象となるだけでなく、適格消費者団体による差し止め請求の対象にもなることになるため、一層その有効性について十分に検討した上で契約条項を定める必要が生じると考えられます。

2007.03/27

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修