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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

更新料に関する新たな判例

出典:貸主更新料弁護団

【1】更新料に関する判例の動向
更新料に関する判例については、前回東京地裁の判決を紹介しましたが、平成22年10月29日に京都地裁で、更新料に関する新たな判例が出されました。更新料に関しては、現在最高裁に上告されている大阪高裁の判決が有名ですが、それ以外にも地裁レベルで大阪高裁とは異なった見解の判決が出されており、最高裁での判断を待つにしても、今回の更新料に関する判断も、更新料に関する特約についての実務上の重要な指針になると思いますので紹介させていただきます。

【2】京都地裁平成22年10月29日更新料判決

  1. (1)事案
    本件は被告を賃貸人とし、原告を賃借人として、原告被告間で下記の賃貸借契約を合意した。
    賃貸期間 平成18年11月1日から平成19年10月31日まで
    使用目的 居住用
    賃  料 月額 4万8000円
    共 益 費 月額 1万1000円
    更 新 料 10万円
    原告は被告に対して、賃貸借契約を更新するに際し、平成19年10月1日、平成20年10月1日、平成21年10月1日に、更新料として各10万円を支払った。
  2. (2) 判旨
    1. I 更新料の法的性格
      本件のような居住用賃貸建物を目的とする賃貸借契約における更新料は、授受の時点では法的な性質は決まっておらず、賃貸借契約の期間が満了した場合には賃料に、契約期間の途中で解約された場合には既経過分は賃料に、未経過分は違約
    2. II 更新料条項と消費者契約法10条前段該当性
      更新料の内、賃料の前払としての側面では、民法は任意規定として賃料の後払いを定めている(民法614条)ので、賃料の前払は消費者である賃借人の義務を加重する特約であり、消費者契約法10条前段に該当するということができる。違約金としての側面については、民法には賃貸借契約の中途解約時に違約金を支払わなければならない規定はないので、同様に消費者である賃借人の義務を加重する特約であり、消費者契約法10条前段に該当するものということができる。
    3. III 消費者契約法10条後段該当性
      1. 更新料は、賃貸契約期間中の途中解約がない限り、賃貸期間全体に対する前払の賃料に該当するものであるところ、賃料は必ず月額で定めなければならないものではなく、更新料名目で賃貸借契約の更新時に賃料の一部を一時払いとして支払を求めることは不合理なものではない。また、賃借人が賃貸借契約を期間途中で解約した場合には、既経過部分は賃料に未経過部分は違約金に相当するところ、契約期間の途中で賃貸借契約が解約された場合には、賃貸人としては予定していた賃料を取得できなくなったわけであり、本来、期間の定めのある契約では一方的に途中で契約を終了させることができないのが原則であるから、違約金を徴収することには一定の合理性が認められる。
      2. 賃貸人の主張な義務は賃貸物件の使用収益をさせることであるところ、賃貸借契約の更新時には賃貸物件の引渡は既に履行されており、賃貸人の債務不履行が問題となることは少なく、賃料の前払によって賃借人が信義則に反する程度に一方的不利益を受けているということはできない。
        賃貸借契約を途中解約することなく期間を満了した賃借人の場合、経済合理性の観点からすると、更新料があることによってそれがない場合と比べ、月々の賃料額より低廉になっていると考えられるところであり、更新料があることによって、賃借人に不当に高額の金銭の負担をさせていることにはならない。
        本件賃貸借契約においては、月額賃料4万8000円、更新料10万円であることは、賃貸借契約書に明確に記載されており、年間の賃料と更新料を併せた金額を容易に知ることができるところであって、ことさら賃料額を低く見せかけて、消費者を欺くようなものであるとは認められない。
        したがって、更新料は消費者契約法10条後段の要件を満たさないし、信義則違反あるいは公序良俗違反の観点からしても無効ではない。
    4. IV 消費者契約法9条1号の適用について
      更新料の違約金条項の側面は、違約金条項の有効性基準が定められている消費者契約法9条1号の問題である。 賃貸借契約を途中で解約した賃借人が負担すべき違約金の額は、賃貸借契約が1年の場合、賃料1カ月分程度とするのが相当であり、この観点から賃貸借契約を途中で解約した賃借人については、更新料の額や途中解約した時期により、更新料条項が一部無効となって、更新料の返還を求めることができる事案があると考えられる。
    5. V まとめ
      本件においては、原告である賃借人は、本件賃貸借契約を途中で解約したわけではないので、更新料は賃料の前払に相当すると解されるところ、前記の通り、前払の性質を有する更新料条項については、賃借人が信義則に反する程度に一方的に不利益を受けていると言うことはできず、信義則違反あるいは公序良俗違反の観点からしても無効と言えるものではない。

【3】本判決の評価

本判決は、平成21年10月の大阪高裁判決が更新料の法的性格を賃借権設定の対価の補充と判断したのに対して、明白に賃料又は中途解約違約金であると判断した上で、少なくとも賃料たる性質を有する既経過部分の更新料については、消費者契約法10条に反しないと判断している点が、着目すべき点であると思います。
これに対して、大阪高裁で更新料特約を無効とした判決はいずれも、更新料について法的性質について、これまで判例等で認められてきたいかなる性質も全く認めないという根拠不明瞭な判断を行っており、そのような判断とは一線を画したものと言えます。
そして、最高裁も、既に更新料については、賃料の一部の側面もあるという判断を示しているので、本判例は、今後の最高裁の判断の内容を予測する上でも、大変参考になるのではないかと思います。

2010.11/16

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修