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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

火災警報器設置義務の改正と管理業者のリスクについて

1 消防法改正による住宅の火災警報器設置義務に潜むリスク

 

(1) 火災警報器設置の義務化は何時からですか
 平成16年6月消防法の改正により、住宅用火災警報器の設置が義務付けられました。設置時期は、新築の住宅については、平成18年6月1日より設置が義務 づけられていますが、既存住宅への設置は各市町村条例により、原則として平成20年5月31日、遅くとも平成23年5月31日までを期限として、設置の完 了期日が定められています。したがって、既存住宅については、住宅の存する各市町村に設置義務の期限を確認する必要があります。(東京都では、平成22年 5月1日より設置義務化されます)
(2) 対象建築物は何ですか。
 全ての住宅及び共同住宅が対象となります。したがって、新築の賃貸用共同住宅は勿論、各市町村により定められた開始日からは既存の賃貸用共同住宅も火災警報器設置義務が課せられることとなります。但し、既に火災警報器が設置されている場合や、自動火災報知設備、共同住宅用スプリンクラー設備等が設置されている場合には、設置義務が免除される場合があります。
 
(3) 消防改正による火災警報器の設置義務者は誰になるのですか?
 火災警報器の設置義務者は、住宅の関係者(所有者、管理者又は占有者)と定められています。
 したがって、持ち家の場合はその所有者が、アパートや賃貸マンションなどの場合は、建物所有者と賃貸人と賃借人が協議して設置することとなります。
 
(4) 設置の費用は誰が負担しますか
 新築住宅は、そもそも、竣工時に設置が義務付けられています。
 次に入居中の賃貸住宅については、従前の賃料の内容に防火設備まで含まれておりませんので、設置義務者である建物所有者、賃貸人、賃借人の誰が負担するかは協議して定めるべきこととなりますが、住宅用賃貸借契約においては、平穏且つ安全な住居の提供が賃貸人に課せられておりますので、賃貸人は、物件提供義務の内容として火災警報器を設置すべき義務を賃借人に対して負っていることとなります。したがって、設置費用は、賃貸人又は建物所有者になると考えられます。
 また、既存住宅の内、退去後に新たに入居募集する場合には、賃貸人において火災警報器を設置しておかないと賃借人との関係で、賃貸借契約上の物件提供義務の不履行と評価される危険性があります。したがって、火災警報器の設置費用は、やはり賃貸人又は建物所有者の負担となります。
 
(5) 設置猶予期間中に火災警報器を設置していない時のリスク
(想定)火災が発生し、逃げ遅れによる死傷及び損害が本人及び周辺の方に発生した場合。管理会社とオーナーのリスクはどのようなものがありますか?
 設置猶予期間中は、火災警報器の設置義務は課されておりませんので、火災警報器の不設置を理由とする建物所有者、建物賃貸人に賃貸借契約上の債務不履行責任、不法行為上の工作物責任が発生する可能性は当初から安全な建物であることを表示しているなど特別の事情のない限り、少ないと考えられます。
 
(6) 火災警報器の設置義務について、管理会社がオーナーに対して提言せず、猶予期間を超えても設置しないままになっていた時に火災が発生した場合のオーナーと管理会社のリスクは何ですか。
 建物の賃貸管理委託を受けている賃貸管理会社は、オーナーに対し、賃貸管理上の善管注意義務を負っております。そして、火災警報器の設置義務が賃貸人又は建物所有者に課せられる場合には、管理会社はその旨オーナー兼賃貸人に報告しなければ、善管注意義務違反として、火災警報器を設置していれば免れたオーナーの責任について管理会社が責任を負う場合も考えられます。
 したがって、管理会社は、火災警報器の設置義務について賃貸人やオーナーに設置義務が課せられた場合には、直ちにその旨報告を行わないと、火災事故が発生した場合、オーナーが負う損害賠償責任の全部又は一部について善管注意義務違反に基づき損害賠償責任を負う危険性があります。
 また、管理会社も、賃貸人より委託を受けて当該建物を事実上支配し、その瑕疵を修補し得て損害の発生を防止しうる立場にあるときは、民法717条の工作物責任における占有者として、被害者に対して工作物責任を負う可能性があります。
 
(7) 火災警報器の設置義務を無視して設置しないオーナーの物件で火災発生による被害があった場合における管理会社としてのリスク。
 管理会社も、不法行為における工作物責任においては占有者として故意又は過失があった場合には、損害賠償責任を問われる可能性があります。そこで、火災警報器の設置義務をオーナーが知りながら怠った場合には、管理会社がその設置義務の内容を説明し、オーナーに設置義務があることを理解させておいたとしても、被害者との関係では、前記の工作物の管理に占有者として火災警報器の設置を怠ったとして設置又は管理に過失があるとして損害賠償責任を負担する可能性があると考えられます。
 
(8) 火災警報器を設置することによって発生する新たなリスク
1定期点検を怠り、故障していたために作動しなかった場合の責任
 管理会社には明らかに管理上の過失が存在しますので、火災警報器が作動しなかったことにより賃借人等が損害を被った場合には、管理会社も不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
2設置した火災警報器の効果と機能を説明しなかった為、入居者が消防署に通知する機能とか消火する機能があると勘違いして適切な対応をとれず被害が拡大した場合の責任。(説明義務がありますか?)
 火災警報器の設置義務は、消防法上は賃貸人だけでなく入居者等の関係者に課せられております。したがって、火災警報器の機能については、入居者も十分に理解しておかなければならない立場にあると考えられます。
 また、法律上設置義務が明示されており、公示機能も十分に果たされていると考えられますので、直ちに、入居者に対する説明義務が発生するとまでは考えられません。
 但し、賃貸借契約における貸室内の設備の使用方法の説明として、火災警報器の機能等についても説明しておいた方が望ましいと考えられます。
 また、宅建業法との関係では、宅建業法上35条1項14号では建物の設備の状況についての説明義務は課されておりますが、火災警報器の設置の有無及び機能についてまでは説明義務が課せられていないので、47条において特に重要な事項として説明義務が課せられる場合を除き、火災警報器について説明しなかったとしても宅建業者が直ちに宅建業法違反を問われる可能性は少ないと考えられます。
3製品自体の不具合で被害が拡大した場合の責任。
 火災警報器の不具合により、火災による被害が拡大したような場合には、まず、火災警報器の製造メーカーが製造物責任による損害賠償責任を負う可能性があります。この場合、建物所有者や賃貸人は、当該不具合について検査等により発見できる可能性があった場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
 

 

(9) 火災警報器の効果と機能を理解していないオーナーからの訴訟リスク
(上記の「6-2」と同様で説明義務があるのか?)
 賃貸管理業者としては、火災警報器の設置義務も開始前に、オーナーや賃貸人に対して、火災警報器の設置義務の内容、火災警報器の内容について報告し、設置義務開始前に建物の火災警報器を設置する必要があることを説明しておかないと、善管注意義務違反として、(6)に記載のとおり損害賠償責任を負う可能性があります。

 

(10)入居者が火災警報器の設置工事に協力せず、入室を拒んだために設置できない場合において、この部屋が失火元となり、火災警報器があれば、被害を抑えることができると思われる場合に、オーナー、隣人、拒んだ入居者から訴訟されるリスクについて。
 消防法上は、入居者も関係者として火災警報器の設置義務が課せられております。また、賃貸借契約上も、賃借人は賃貸人に対し修繕協力義務を負っております(民法606条2項)。
 したがって、火災警報器の設置について入居者が拒んだことにより被害が拡大したと認められる場合には、賃貸人や建物所有者には過失はなく、損害賠償責任を負う可能性は少ないと考えられます。
 また、他の入居者から損害賠償請求をされるリスクについては、既存物件で貸室内への入室が当該入居者の拒絶により不可能であれば、工作物責任との関係でも所有者及び管理会社は責任を負わない可能性がありますが、新規募集の物件等所有者や管理会社において火災警報器を設置できた場合には、他の入居者からの請求に対して、工作物責任等により責任を負う可能性があります。

 

2 サブリースの場合に発生する火災警報器設置に関するリスク

 

オーナーと管理会社としてのリスクの両方をもつことになるのでしょうか?また、火災警報器の設置を拒否するオーナーがいた場合に、設置できず火災事故が発生した場合のリスクはありますでしょうか。また、入居者から損害賠償請求された場合に、サブリース会社として、オーナーに損害賠償の請求ができるのでしょうか。
 サブリースの場合には、管理会社が賃貸人となりますので、既存の住宅で既に賃貸中の場合を除き、賃借人に賃貸する前に貸室内に火災警報器を設置しておくべき義務が賃貸借契約上の義務として発生していると考えられます。
 したがって、この場合オーナーが拒むことにより火災警報器が設置できなかったために被害が拡大したような場合には、それを理由に管理会社は賃借人に対して損害賠償を拒むことはできないと考えられます。

 

3 火災警報器の設置に関するリスク回避策

 

火災警報器の設置に関するリスク改善策として以下は有効でしょうか?
 

(1) 火災警報器の点検を怠ったリスクの回避
 入居者に点検の方法を説明し日常の点検義務を持たせて、そのことに対する承諾書にサインさせることによって、管理会社及びオーナーの機器に対する維持管理義務のリスクを無くす。ただし、10年が機器本体の寿命であると言われているので、機器本体の設置期間については、管理会社及びオーナー側で管理し10年後を目安に新品と交換をするのはいかがでしょうか。
 有効は手法であると思います。
 但し、承諾書には十分に点検業務の内容、方法についての説明が必要であると思います。
 また、火災警報器の瑕疵により管理会社が責任を追及された場合には、管理会社も施設賠償責任保険に加入しておくことが、リスク回避の方法として必要であると思います。

 

(2) 猶予期間中のリスク。
 猶予期間中といえど、設置義務の発生が迫っていることをオーナーに伝え早急に設置することを促す。また、説明を聞いたことがないと言われない為にも書面にて設置義務を説明しサインを頂くのはいかがでしょうか。
 有効な手法であると思います。
 管理会社としては、善管注意義務違反を問われないようにするために、必ず報告したい内容、説明した内容を書面で残し、火災警報器の設置についてオーナーが独自で行うのであれば、その旨オーナーから書面を提出してもらうことがリスク管理として必要であると考えられます。
 また、オーナーが設置を拒絶した場合に備えて、管理会社は施設賠償責任保険に加入しておくのがよいと思います。

 

(3) 入居者に火災警報器の効果と機能を説明し、また、効果や機器本体を保証するものではないことを理解させて説明書の書面にサインを頂くのはいかがでしょうか。
後々トラブルを防止するために有効な手法であると思います。
 

 

(4) オーナーに火災警報器の設置義務や取付ける場合の火災警報器の効果、機能の説明を怠った場合のリスクの回避。
 火災警報器に設置が義務化されていることを説明し、説明した証拠に説明書にサインさせる。
 また、設置した場合も設置する火災警報器がどのようなタイプでどんな機能や効果が期待できるのかを説明する。また、効果や機器本体を管理会社が保証するものではないことを理解させて説明書の書面にサインを頂くというのはいかがでしょうか。
 (2)と同様、管理会社の責任を最小限にするためにも有効な手法であると思います。
 ただし、入居者からの損害賠償請求に対して、施設賠償責任保険に加入しておくことも必要であると思います。

 

2007.04/24

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修