弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ
中途解約と立退料
木造2階建て(1階飲食店、2階住居)を借りておりました。契約期間2年間の約定で期間満了の3か月前になり、突然家主から建物が古くなり建て替えたいので明け渡してくれと言われました。この場合、期間満了時に、直ちに建物を明け渡さなければいけないのでしょうか。
1 期間の定めのある賃貸借契約と更新拒絶
賃貸人は、期間の定めのある場合には、期間満了前の1年ないし6か月前に更新拒絶の通知をし、かつ、期間満了後に賃借人が建物の使用を継続している場合には遅滞なく異議を述べなければなりません。その上、賃貸人が、更新拒絶の通知をするには、正当事由が備わっていることが必要となります(借地借家26
I 、27 II 、28)。
したがって、本件でも、まず、期間満了の6か月前までに更新拒絶の通知を行うことが必要となりますので、期間満了まで3か月しかない以上、更新拒絶することはできず、合意更新契約をしなければ、法定更新により期間の定めのない契約となります。
しかし、法定更新後は、期間の定めのない賃貸借契約となりますので、借地借家法上期間の定めのない賃貸借契約においては6か月前までに解約申入を行い、かつ、その解約申し入れに正当事由が備わっていれば、賃貸借契約を解約することが可能となります(借地借家26
I 、27 II
、28)。このため、賃貸人は、更新拒絶はできなくとも、通知から6か月後に解約する旨の解約申入を行うことにより、正当事由を具備すれば解約することが可能となります。
2 正当事由の要素
正当事由には、以下の事情が考慮されます。
1賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情(借地借家28)
賃貸人が建物を自ら使用する必要がどの程度あるか、賃借人がほかに使用できる建物があるか。使用目的が、居住目的なのか、営業目的なのか等。
2賃貸借に関する従前の経緯(借地借家28)
賃貸借をすることにした経緯、権利金等の支払の有無及び額、契約上の義務の履行状況等。
3建物の利用状況(借地借家28)
賃借人が当該建物をどのような目的・態様で利用しているか。
4建物の現況(借地借家28)
建物の老朽化により大修繕・建て替えが必要になっていることや、建物敷地の利用権限の喪失のために建物の利用が困難になる等。
5賃貸人による財産上の給付の申出(借地借家28)
立退料の提供がこれにあたりますが、立退料の提供のみで、正当事由があると判断されるものではなく、ほかの諸事情とともに立退料の提供があるときに、正当事由があると判断されます(最判昭46・11・25)。
立退料の算定には、借家権価格、造作買取価格、営業上の損失に対する補償、移転実費、慰謝料、開発利益等が斟酌されます。
3 本件における解約の可能性
本件においては、建物の老朽化と建て替え計画の存在という賃貸人側の解約の必要性がまず存在すると考えられます。しかし、正当事由の有無の判断においては、単に賃貸人側の建物の使用の必要性だけでなく賃借人側の建物の使用の必要性が具体的に考慮され、本件においても、賃借人は建物において居住しているだけでなく、1階で店舗も営んでいるため、本件建物において店舗営業を継続する必要性も考慮されることとなります。
このため、本件においては、賃貸人としては、単に建物の老朽化等の建物の使用の必要性だけでなく、正当事由の補完要素として、立退料の提供があってはじめて正当事由が具備される可能性が高いと考えれます。
そして、立退料の算定に当たっては、上記のとおり借家権価格、造作買取価格、営業上の損失に対する補償、移転実費、慰謝料、開発利益等が斟酌されることとなります。
したがって、本件においては、賃貸人は、建物賃貸借契約を解約しようとするためには、解約申入の要件を具備するだけでなく、正当事由を備えるために、具体的な建て替え計画の作成の他、立退料の準備も必要になるものと考えます。
2007.05/22
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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫
【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修