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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

保証と保険の区別について

保証と保険の区別について


 少額短期保険業制度については、既に説明しておりますが、具体的な賃貸管理上の業務において、当該業務が保証契約であるのか、保険契約であるのかと言うことを聞かれるケースがよくあります。保証契約であるとすれば、民法及び商法上の保証契約に関する規律に服することとなり、保険契約であれば、商法だけでなく保険業法上の少額短期保険業に該当することも考慮しなければなりません。

 なお、保険業法上は、保証保険や信用保険のように法的性質は保証契約であっても、保険数理に基づき当該対価を決定し、準備金を積立てて、再保険による危険の分散を行うことその他保険固有の方法を用いて行うものについては、損害保険と見なして保険会社も取り扱うことが出来るとされている場合があります(保険業法3条6項)。
 そこで、今回は一般的な保証契約と保険契約の区別について説明したいと思います。

保証契約の意義・内容


(1) 保証契約の意義

 保証契約とは、債権者と保証人との間で締結される契約であり、その内容としては、次の点が認められます。

1別個債務性
 保証債務は主たる債務とは別個の債務であり、別個独立性とも言われています。


2内容同一性
 保証債務の内容は、主たる債務と同一の内容を有します。但し一部保証も可能です。

 

3附従性
 保証債務は、主たる債務に付従し、主たる債務が無効・取消・解除等により存在しないか消滅した場合には、保証債務も存在しないか消滅します。
 

4補充性
 保証債務は、主たる債務について履行されない場合に限り、履行の責任を負担します。但し、連帯保証には補充性はありません。


5随伴性
 主たる債務者に対する債権が第三者に移転した時は、保証債務もこれに従って移転します。


6無償片務契約性
 保証契約は、債権者が保証人に対して債務を負担したり対価的意義を有する出捐を必要としないため無償契約であり、また、保証人となる者のみが債務を負担し、他に対価的意義を有する債務を負担するものがいないため片務契約です。

(2) 保証契約の成立要件

 保証契約の成立要件については、それまで諾成・不要式の契約でしたが、民法改正により、平成17年4月1日から、保証を慎重ならしめるため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合 に限りその法的拘束力を認めるものとすることが相当である。このため、根保証契約に限らず保証契約一般を対象として,保証契約は書面でしなければその効力を生じないものとして要式契約とされました(民法446条2項)。

(3) 保証契約の種類
保証契約の種類としては次のような種類があげられます。

1単純保証と連帯保証
 単純保証が、保証債務の補充性が認められ、保証人は催告の抗弁、検索の抗弁を主張できるのに対して、連帯保証は、保証人が保証契約において主たる債務者と連帯して債務を負担する旨約するものであり、補充性がなく、催告の抗弁、検索の抗弁が認められません。
 なお、債務が主たる債務者の商行為によって生じた時、または保証が商行為である時は、商法511条2項に基づき連帯保証とされます。


2委託のある保証と委託のない保証
 主たる債務者が保証人に委託したことに基づいて保証契約を締結する場合と、主たる債務者の委託に基づかないで保証人が債権者と保証契約を締結する場合、更には、主たる債務者の意思に反して保証人が債権者と保証契約を締結する場合では、保証債務を履行した場合の主たる債務者に対する求償権の範囲に違いが生じます。


3根保証
 債権者と主たる債務者との間の継続的取引から生じ、且つ将来発生し増減する一段の不特定の債務を一括して保証することを言います。金融機関における当座貸し越し契約や手形割引その他の継続的融資による債務、卸商と小売商との継続的売買による債務、賃貸借契約に基づく賃借人の債務、雇用契約に基づく被用者の債務を保証する場合がこれにあたります。根保証契約のうち、主たる債務に金銭の貸し付け、又は手形割引により発生する債務の根保証であるいわゆる貸金等根保証契約については、民法改正により、包括根保証の禁止、極度額の定めや元本確定期日の定めの有効要件化が定められました。

4その他
 その他、共同保証、手形保証、求償保証、機関保証等の種類もあります。

 

3 保険契約の意義・内容

 

(1) 損害保険契約の意義 

 保険契約には、損害保険契約と生命保険契約がありますが、特に保証契約との区別が問題となるのは損害保険契約ですので、損害保険契約を中心にして説明します。
 損害保険契約とは、一方当事者が偶然な一定の事故により生ずることのある損害を填補することを約し、これに対して他方当事者が報酬を支払う契約です(商法629条)。そして、その契約の性質としては次の性質が認められます。

1諾成・不要式契約
 保険契約は保険者と保険契約者との意思表示の合致すなわち申込みと承諾により成立する諾成契約であり、保険料の支払い又は書類の作成をまたず、合意だけ成立するとされております。ただし、保険実務上は、保険契約者が保険申込書を作成して保険者に交付した上、保険料の支払が無い限り保険契約の成立を認めない取扱となっている場合が多いことから、事実上要式行為化されているといえます。

2有償・双務契約性
 保険契約は、一方保険契約者が保険料支払義務を負い、保険者が保険事故が発生した場合に保険給付をする義務を負うことから、有償双務契約であるとも言われております。


3射倖契約性
 保険契約は、契約当事者の双方又は一方の具体的な給付の発生が偶然的な事実にかかり、保険事故の発生の有無・時期等によって保険者と契約者との具体的給付相互間の均衡関係が左右されるため射倖契約である言われております。そして、保険契約者の不当な利得を防止し、モラルハザードを抑止するために、保険契約者には、保険契約の締結に当たり、保険者に対し重要な事実を告げなければならず、また重要な事項について不実のことを告げてはならないという告知義務が課せられています(商法644条1項)。

4付合契約性
 保険契約は、保険制度が危険分散を目的とするため、保険者と多数の保険契約者との間において大量に締結されることを予定しており、そのため、同一の保険団体に属する保険契約者間に契約条件に差異を設けることは公平に反することから、あらかじめ保険約款を作成し、保険契約者は、別段の意思表示をしない限り、当然に保険約款に基づいて保険契約を締結していると解されております。

(2) 損害保険契約における被保険利益の存在
 損害保険契約においては、被保険利益すなわち、保険事故が発生しることにより被ることのあるべき経済的利益が存在することが要件とされております。

 損害保険契約において、被保険利益の存在が要件とされているのは、損害保険契約を賭博から峻別しモラルハザードを抑止するとともに、保険の目的や保険給付額を確定するための機能を有しているためです。

(3) 損害保険契約の種類
 損害保険の種類については、保険事故の発生の場所を基準にして陸上保険、海上保険、航空保険に分類され、保険事故又は被保険利益を基準にしてものに対する火災保険、運送保険、家財保険等、人体に対する傷害保険等、債権に対する個人ローン信用保険、保証保険、抵当保険等に分類されます。また、自動車損害賠償責任保険等の責任保険も損害保険の一分野となっております。
 

保証と保険の区別


以上のとおり、保証契約と保険契約とりわけ損害保険契約とを対比すると、

1事故発生について債務者の意思が作用するかどうか
2損害填補を主な目的とするか信用の付与を目的とするか
3無償契約として成立する余地があるかどうか
4告知義務違反による契約解除が出来るかどうか
5主たる債務に対して附従性を有するかどうか
6危険の測定大数法則適用の可否等

が両者の違いとして認められることとなります。

 

家賃保証と空室保証


 賃貸管理の場面で保証契約か保険契約か区別が問題となる場合としては、賃貸管理会社が賃貸人に対して、賃借人の賃料債務等について保証している場合(家賃保証)や、当該物件について空室が生じた場合に、その空室期間中の家賃相当額を保証している場合(空室保証)があります。そこで、これらの場合が保証契約であるのか、保険契約であるのかについて検討します。

(1) 家賃保証の場合

家賃保証の場合には、

1まず、主たる債務である賃貸借契約の成立が前提となっていますの附従性が存在します。


2また、賃料債務の不払いという事故は債務者の意思に専ら左右されますので、偶然の事故とは認めがたいものです。


3さらに、賃借人の無資力等の事故招致について告知義務が賃貸人に課せられているものではありません。

 このように、一般的には、家賃保証については保証契約である可能性が高いと考えられますが、賃貸管理会社が家賃保証を行う場合に、賃貸人から対価的意義を有する出捐を取得している場合には有償双務契約であることから、その場合には今後は保証保険と同様保険契約と同様に取り扱われる可能性もあるのではないかと考えられます。

(2) 空室保証の場合
空室保証の場合には、

1まず、空室による賃料収入の不発生という事故が、当事者の意思に関わらない偶然の事故により生じると言う意味で、偶発的事故と評価される可能性が高いと考えられます。


2次に、主たる債務の存在を必要としない点で附従性が存在しません。


3空室の将来について、例えば心理的瑕疵ある物件であるかどうか等の物件の性状により事故の発生の可能性は大きく左右されるため、賃貸人には一定の告知義務を課すべきであると解することも考えられます。


4そして、賃貸管理会社が空室保証をすることと対価的意義を有する出捐を賃貸人から取得していると認められる場合が存すること。


 以上から、家賃保証に比べて空室保証の場合には遙かに保険契約としての該当性が高いものと考えられます。

 したがって、賃貸管理会社が賃貸人に対して空室保証を行っている場合で、それにより一定の対価定義を有する保証料を取得しているような場合には、保険契約であると評価され、保険業法上の少額短期保険業の適用を受ける可能性が高いと考えられます。
 

結論


 以上のとおり、保証契約と保険契約とはその法的性質や内容については本来全く異なったものですが、近時、様々な業務が行われるように至り、そのため、その契約の内容によっては、保証契約が保証契約か又は全く別個の無名契約であるのか極めて判別が難しい状況が出てきております。

 実務において保険契約か保証契約かを区別するための判断基準として以上の説明が参考になればと思います。

2007.02/07

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修