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特集記事

業界の動向

(財)日本賃貸住宅管理協会大阪府支部 2006年度第一回定例会

主催:日本賃貸住宅管理協会大阪府支部

「プロパティパネジメント推進の手引き」
  (2006.7.10:大阪産業創造館)

 「賃貸管理=クレーム処理」から、「プロパティマネジメント=お預かりした資産のキャッシュフローを最大化する業務」へ・・・賃貸管理会社としていかに脱皮を果たすか。今回の講師はプロパティマネジメントの第一人者であり、業界全体の推進に力を注ぐ塩見紀昭氏。某大手不動産のファンドからのPM(プロパティマネジメント)を担う豊富な経験から、PM(プロパティマネジメント)の視点で見たこれからの賃貸管理業を、熱く語って下さいました。


PM業務で学んだリスク管理
 「ファンドの物件をPM(プロパティパネジメント)すると、一般の大家さんよりもより多くのことを要求されます」と、塩見氏がまず例に挙げたのは地震時の対応。“震度4以上の地震が起きた場合、3時間以内に管理している物件を目視にて点検し、状況をファンドに報告する”・・・この要求に、最初はひるんだ社員もおられたそうです。しかし、「これは通常の賃貸管理業においても応用できるのではないか」と、一般の大家さんにも同様の対応を実施。するとどうでしょう。大変喜ばれたというのです。

賃貸管理業においては、地震をはじめとした災害はもちろん、“家賃滞納”や“空室”などのさまざまなリスクが取り巻いています。加えて、消費者契約法や個人情報保護法からエレベーター事故やアスベスト問題まで・・・さらなるリスクの高まりを感じずにはいられません。これらの問題にどうやって取り組んでいくか。塩見氏はPM(プロパティパネジメント)の経験から学んだリスクマネジメントの方法を、一般の大家さんの賃貸管理にも是非取り入れてほしいと紹介します。
 

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 手元に配られた資料には、“リスクマネジメントサーキット”の表が掲載されており「予知→予防→発生→対処→処理→教訓」と事件が起きる流れが表記されています。この中の「発生」部分に、塩見氏は「浜松の鍵事件」の例を記入されます。
営業マンの一人が、合鍵を使って入居者宅に侵入し、暴行を加え殺害した事件。判決では高額の賠償金が管理会社に支払命令として下されたそうです。「皆さんの会社ならどうしますか? 払えますか!?」
大切なのは、この事件を含めた他社の事例を「対岸の火事」にしないこと・・・塩見氏の言葉に力が入ります。そして「予知・予防」の部分を指し、「すべてのリスクには予兆があります。ここから発生を読み取ることが重要です。事件が発生したとき、“予見可能性”という言葉がよく聞かれるでしょう。予見した上で対策を施すのが、賃貸管理業の専門家である我々の使命なのです」。
先述の「浜松の鍵事件」を教訓に、塩見氏の会社ではどのような対処をされたのでしょうか。そもそも、管理会社が合鍵を持っているからリスクが発生します。しかし、もしも鍵を紛失したばあい入居者が困るのではないか。いや、逆に他人が合鍵を持っていることのほうが、入居者にとっては嫌なことかもしれない・・・そう考えた結果、「入居者に我々が合鍵を持つかどうかを選んで頂くことにしました。すると、ほとんどの入居者、特に女性は『すべての鍵を自分で管理する』と選択されたのです」。ほかにも、案内中の女性営業マンが暴行未遂を受けた事件を教訓に、万が一のことを想定し案内前にお客さんの身分証明書を提示してもらう決まりを作ったり、ペット不可物件であっても“将来的にペット可となる可能性があります”との文言を重説に加えたり。事例に沿ってシュミレーションし予防するように努めておられるとこのことです。
「入居者が集まらないからペット可にしたのはいいものの、動物アレルギーである居住者から苦情が出ては困ります。発生したときの損害の大きさと発生頻度を予測し、そのリスクが少なければ“保有”。頻度が大きいなら“除去・軽減”、損害が大きいなら“保険”、頻度も損害も甚大であれば“回避”の措置を施さねばなりません」。

賃貸管理業とプロパティマネジメント業務
似て非なる二つの業務から、何が見えるか?

ここまでのリスクマネジメントの例を踏まえ、「ファンド相手だけがPM(プロパティパネジメント)ではありません。お預かりした資産のキャッシュフローをいかに良くしていくか、この観点が管理会社にも問われます」と塩見氏。では、そのためにはどうすれば良いのでしょうか?
 

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ここで塩見氏は“NOI”という言葉を出されます。Net Operating Incomeの略で、物件か得られるであろう賃料から、経費や滞納などによる損失を差し引いた、実質的な収益のことを言うそうです。「皆さんが管理されている物件で、滞納も空室もなく、常に100%のキャッシュフローを上げている物件はありますか? ないでしょう(笑) さまざまな経費や損失を差し引いた結果、NOIは最大と予測されるキャッシュフローの8割ほどになると言われています。これをいかに少しでも高く上げるか、それが我々の仕事です」。たとえば、4万5千円の賃料であれば入居者がつくと思われる物件があるとします。しかし、現状は5万円の賃料で募集をしている・・・通常であれば大家さんに5千円の賃料値下げを提案しますよね。しかし、PM(プロパティパネジメント)的発想であれば、その5千円を「投資」に回す。5千円×5年分で、30万円分を初期投資に回し、物件の設備を充実させた結果、物件に魅力を感じた入居者が集まる・・・といった図式です。
テナント・リテンション(入居者の保持)も重要な課題です。「我々としては、どうしても“悪い入居者”の方に手を焼いて時間をかけてしまいます。家賃滞納で困った入居者・・・私は今でも名前と電話番号まで覚えていますよ(笑) しかし皆さん、果たして“良い入居者”のことを覚えていますか? 忘れちゃっているでしょう。現在入居中の“良い入居者”を大切にすることも、忘れてはなりません」。空室期間を減らすためには解約戸数を減らし、長く住んでもらうことがポイントです。そのために塩見氏は入居後のお客様にアンケートを施し、不満に耳を傾けているそうです。「実は入居者の方は不満がいっぱい。言っても仕方がないから、と諦めている“サイレント クレーマー”なのです」。そして不満が頂点に達したら、退去してしまう・・・そうならないために、アンケートは有効な手段といえます。

PM的な観点では、大家さん・オーナーさんは「株主・投資家」です。「物件の価値を上げるのは、我々の手腕にかかっていると思いませんか。我々の提案力や努力によっては、手取りの賃料収入を増やすことができ、その結果、物件の価値は上昇します」。
価値(V)=手取り収入(NOI)÷(期待)利回り(CAP RATE)
(注:ローンの元本は手取り収入に含みません)
 

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 そのためには、既成概念を取り払い自由な発想が必要であると、塩見氏は説きます。「これからの時代は、いろいろな物件があって良いんです。たとえば当社で案を出し合ったところ、“ガードマン付きの賃貸マンション”や“ミニシアター付き物件”などと面白いアイデアが出てきました。これは一例でありますが興味深いでしょう」。それに加え、“貸し方が多様化しているのではなく、ニーズに合ったサービスが求められているのではないか”というのが塩見氏の見解。ウィークリー・マンスリーマンションや外国人向けのゲストハウスがその一例です。

「PM(プロパティパネジメント)の成否は提案力・分析力にかかっています」。その中で、賃貸住宅管理士であるからこそ可能である提案を、最後に教えて下さいました。「それは、長期修繕計画を、大家さん・オーナーさんに提案することです。これもファンドから学んだことなのですが、長期修繕計画については大家さん・オーナーさんの関心がまだまだ低く、ここに賃貸住宅管理士(注#)である我々の活躍の場があるのではないかと見ています。今後ぜひ、積極的に取り入れて頂きたい・・・大きなビジネスになるのではないかと思います!」

(注#:賃貸住宅所有者や入居者の依頼・相談に基づき、賃貸住宅所有者には賃貸住宅の安定的かつ効率的な資産運用のためのコンサルティングサービスを提案するとともに、入居者(法人を含む)には、安全・快適・便利な住生活の実現、トラブルの未然防止と解決のためのアドバイスを行う、日本賃貸住宅管理協会が認定した貸賃住宅管理の専門家。詳しくはhttp://www.jpm.jp/rentmanager/へ)

詳細・関連

(財)日本賃貸住宅管理協会関西支部連合
http://www.e-jpm.com/

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