講師: |
(第一部) |
所有関係別の住宅ストック状況をみると、住宅ストックのうち持家が約60%、借家が約40%となっています。借家全体に占める民営借家の割合は約70%であり、住宅ストック全体の中で民営借家は26.9%とかなりの割合を占めています。
所有関係別に一住宅当たりの平均床面積でみると、持家は居住水準が向上し、平成15年の調査で約125平米となっていますが、借家についてはその約5分の2程度の約48平米の止まっており、その格差は若干解消されたものの未だ広い格差となっています。また、国際的に見ても、非常に低い水準に止まっています。
賃貸住宅の供給平均床面積でみると、平成3年以降50平米以上の戸数の割合は増加傾向にあり、ストックベースで見ても4人世帯の平均床面積は60平米弱まで増加しています。これは、特定優良賃貸住宅制度の創設などにより50平米以上の賃貸住宅の供給が促進されたことや、経済がデフレ局面になり、ファミリー向けの長期居住者に家を貸すリスク(将来の家賃値上げが制約されるリスク)が軽減されたことによるものと考えられます。
次に賃貸住宅に対する消費者の意識を見てみましょう。
平成10年の世論調査によれば、住宅を所有したいと考えている人の割合は全国で76.6%、大都市圏では72.7%となっていますが、所有する必要が無いと考えている人も全国で14.7%、大都市圏で17.1%の割合を占めています。住宅を所有しなくても良い理由としては、「多額のローンを抱えたくないから」と回答している人が31.3%と最も多く、次いで「家族状況の変化に合わせて自由に住み替えたい」が13.7%、「維持管理のわずらわしさがないから」が9.8%となっています。
また、持家・借家志向の傾向を経年的にみると、「賃貸住宅でも構わない」とする人は、平成7年には6.5%のところ、平成12年には11.4%まで上昇しています。なお、持家率を年代ごとでみると、全体では60%程度でほぼ一定ですが、30歳代については、ここ10年間に10%程度低下しています。
民間賃貸住宅経営の状況をみると、個人経営が全体の約86%を占めており、法人による経営はわずかです。また、個人経営のうち賃貸住宅経営を専業としている者は約30%で、大部分は副業として経営しています。個人経営者の年齢は60%以上が60歳以上となっており高齢化が進んでいます。
賃貸住宅の経営動機としては、「資産の有効活用」が最も多く、次いで「将来の生活安定・老後の保証」、「相続対策」となっており、「投資目的」は5%程度にとどまっています。
賃貸住宅の敷地の所有関係は、「所有地」が約90%を占めており、その取得方法は「相続・贈与」が半数以上であり、次いで「以前より購入していた土地を有効活用した」となっており、賃貸住宅経営のために土地を購入している割合は15%程度です。このため、事業収支の考え方は「土地価格を除く投資額に対し、ある程度の利回りを確保する」が32.8%と最も多く、「土地価格を考慮した利回り確保」を考えているのは23.9%です。
ファミリー世帯向けの賃貸住宅の建設は、ワンルームマンションなどに比べて水回り設備の費用が軽減されるなど、一般的に建設コストが安くなるものと考えられますが、
(1)賃料の平米単価は、ワンルームマンションや大規模物件と比べて低くなっている
(2)入居者は、ファミリー用の方が単身用よりも季節変動が大きく、総じてやや低くなっている
このため、賃貸住宅経営における投資利回りを比較すると、7%以上の利回りを得ている場合が、ファミリー用31.9%に対して、単身者用が45.9%となっており、総じてファミリー向けよりも単身者向けの方が高利回りになっています。
賃貸住宅の管理を管理会社に委託しているかどうかは、「委託している」が約40%、残りは「貸主自ら管理を行っている」、「仲介業者が仲介業務と併せて一部を行っている」という回答でした。
賃貸住宅の管理業務を委託する場合の契約形態は、「管理委託契約書」が約70%、正式な書面契約によらない「口頭」が約21%、「委任状契約」が約4%となっています。
管理業者への管理委託内容は、募集・契約・退去の三大業務と滞納家賃処理業務が60%を超えていますが、「事業収支計画の作成」、「修繕・建替え計画の作成」などの長期的な視点からのコンサルティング業務を委託する人はわずか10%程度であり、経営管理面、建物の維持管理面に対する賃借人の意識の低さが伺えます。
実際、長期修繕計画を作成している経営者はわずか20%程度です。
以上のデータを踏まえ、これからの賃貸経営への取り組み方を考えて頂ければと思います。
講師: 全国賃貸住宅経営協会 神奈川県支部連合会 副会長 倉橋隆行 氏 |
(第二部)
キャッシュフローから見る今後の賃貸住宅経営
まず、皆さんに言っておきたいことがあります、それは、「不動産は資産であり、現金や資本と同じ」という事です。先祖代々受け継いだ土地だからとか、地元の土地だからとか言う考えに取り付かれていては、維持費がかかるだけで負債と同じです。それでは、ご先祖様が残してくれた資産でなく負債なのです。有効に活用し、収入があり生活が楽になってこそ、「ご先祖様、ありがとうございます」と思えるのではないでしょうか。
賃貸不動産経営にあたっては、「事業」であることを認識してください。賃貸不動産経営は「副業」でもなく「不労所得」でもありません、れっきとした「サービス業」です。つまり、「素人意識」を捨てて、「プロ意識」を持って取り組んでください。自分の家よりも良い設備、良いサービスを提供してこそ、事業として成り立つのです。今までのように「建てれば貸せる」の時代ではありません。
賃貸不動産経営を事業として捉えると、考えなければいけないのがキャッシュフロー、つまり投資に対する収益です。「流動的に建てて」、「流動的に収入があり」、「流動的に支出がある」では事業とは言えません。節税対策として考えるのも間違いです。税金は収益以上に取られることはありません。賃貸不動産経営で収益があれば、それで税金を支払う事ができるのです。
では、実際に賃貸不動産経営を行うにあたり、考えなければいけないのは今後の市場です。賃貸不動産経営は長期的な投資です。今だけを見て行えば、かならず大きなしっぺ返しが来るでしょう。今後の賃貸不動産経営の留意点は以下のとおりです。
・ 20年前と比べ「借家比率60%→40%」「持家比率40%→60%」と変化。つまり、金利の安い今、永住を考えている人は家を買う傾向にある
・ 人口動向図を見ると、今後の人口は縮小していく。どの年代が多く、どの年代が借りてくれるかを考える
・ 立地条件などが良い物件は、若干賃料が回復しているが、条件の悪いところは賃料を下げても決まらない
・ 入居者の物件に対する希望条件は厳しくなっている
・ 世代、環境を考え、ターゲットを決めてニーズを絞り込む必要がある
・ 賃貸住宅だけにとらわれず、有効活用の可能性を追及する
・ 地価は下落しているが、固定資産税は下がっていない
・ 入居者に対するコスト(リフォーム代、仲介手数料など)は上がっている
・ イニシャルコスト、ランニングコストは上昇している
・ ローコスト、ロークオリティの建物は通用しない
・ 長期運用にあたって、事業計画書を立て検討する
ここで紹介している内容は、ほんの一部です。時代により刻々と状況は変化しています。常に市場動向に目を配り、取り残されないようにしましょう。
今後の賃貸不動産経営において「プロパティマネジメント」は非常に大事なキーワードになります。プロパティマネジメントは、既に欧米では当たり前になっており、収益の最大化をコンセプトにした考え方です。また、大家さんはパートナーとして、有能なプロパティマネージャーを雇用することで、所有と経営を切り離しているのが一般的です。
プロパティマネージャーはその土地や地域に合った賃貸不動産経営を提案します。
例)
・ 賃貸住宅の大規模、大型化により管理コストの低減を図る
・ 賃貸方法の多様化(賃貸住宅、ビジネスホテル、商業施設、倉庫など)
・ 居住性、アメニティ、サービス、ステータス、の向上
・ 利便性、安全性、清潔感、コミュニティの形成
・ 長期運用に耐えるデザインを取り入れる
・ 長期運用に耐える間取りを採用する
・ 高齢者のライフスタイルの変化に対応する
・ 再投資手法を、再建築ではなくリフォームで行う
・ 賃貸方法の多様化(一般借家、定期借家、月貸など)
賃貸不動産経営は様々な切り口、経営方法があります。これが正しい、これだけやっていれば良いと言う事はありません。環境、住む人、年齢層、土地の形、立地、また、融資や家賃設定など、多くの要因が絡んで成り立つということを覚えておいて下さい。
財団法人 日本賃貸住宅管理協会
http://www.jpm.jp/
社団法人 全国賃貸住宅経営協会
http://www.zenjyu.or.jp/