(株)難波不動産鑑定 |
去る2月28日(金)、日本賃貸住宅管理協会 大阪府支部が主催するセミナー「賃料二極化時代に勝ち抜く賃貸管理経営とは」が開催されました。講師は難波不動産鑑定 不動産鑑定士 難波里美氏、このセミナー内容の一部を下記にご紹介します。 |
最近の賃貸市場の動向
今回の調査は、大阪市、南大阪、北大阪、阪神について過去20年間のデータを抽出し、全体地域の住宅賃料の変動を分析したものです。調査方法は1985年以降の各年次7月第1週日付発行の「週刊住宅情報」のデータをまとめたものです。新築、建築後1年のマンションならびに戸建住宅の賃貸物件のみを収集、間取り別に分類しました。
調査によると、2004年の新規供給は、大阪市、北大阪エリアで増加に転じています。また、98年以降、供給の主流はファミリータイプから「1K-1LDK」の単身者向けに変化しています。これは、ファミリー層が分譲マンションへ移行したことが原因と言えます。
賃料を見ますと、横ばいから上昇に転じたのは「1K-1LDK」のタイプ。これは、全体平均で対前年比+8.2%、大阪市エリアでは供給が昨年より3倍弱増加して支払い賃料は+7.7%、北大阪エリアでも供給が4倍強増加して支払い賃料は+12.6%上昇しています。ところが、南大阪、阪神エリアでは供給が減少しており、かつ賃料も下落しています。「1R」賃料も全体で上昇しましたが、これは北大阪で多く供給されたことによります。「2K-2LDK」賃料は-9.6%、「3K-3LDK」では-17.3%の下落が見られますが、これは供給の多い北大阪での賃料下落によります。なお。「3K-3LDK」の供給が減少しているのに対し、「2K-2LDK」の供給量はやや増加しました。
2000年以降はファミリー向けの「2K-2LDK」「3K-3LDK」の賃料格差が縮まっていましたが、2004年には「3K-3LDK」の賃料が85年の水準を下回り再び格差が拡大しています。「1R」と「1K-1LDK」は専有面積が均似してきて賃料格差が縮まりましたが、2004年には「1R」の専有面積が2003年の28平米台から22平米台に6平米も縮小し、29平米台の「1K-1LDK」の平均賃料より高くなったため賃料格差は拡大しました。
「3K-3LDK」の平均専有面積は、86年に67平米台、90年~92年に71~74平米に拡大し、その後専有面積は小さくなり97年には62平米まで縮小しました。その後、また拡大傾向になり、2002年に72平米台、2003年に79平米台、2004年は82平米台となっています。
他のタイプも同様で、「2K-2LDK」は86年の48平米台から2004年は61平米台に、「1K-1LDK」は86年の22平米台から2004年は29平米台に、「1R」は86年の17平米台から2004年は22平米台に拡大しています。
最新賃貸需要の動向
近年世帯分離の傾向が著しく、需要層もそのニーズが多岐にわたっています。従って、単身者には1R、新婚向けは2LDKといった仕分け方は通用しなくなっています。
今伸びている需要は、「子供部屋独立型需要」「キャリア孤独型需要」「DINKS需要」「シルバー夫婦需要」です。いずれも都心型指向を持っています。
その背景は、家族類型別世帯数にみる単独世帯と夫婦のみ世帯の増加があげられます。理由としましては、婚姻年齢が上昇し独身期間が長期化しています。日経新聞にも「独身男女の3人に1人は結婚に消極的」とあり、30代後半以上の消極派は男女ともに40%を超えています。
結婚していない理由
ア) 結婚したいと思う異性との出会いが無い
イ) 自由になる時間、お金が少なくなる
ウ) 結婚してやっていく経済力が無い
では何故都心での住居を求めるのでしょう。
今、大阪市の中心部(北区、福島区、中央区、西区、天王寺区、浪速区)に「20~24歳」の若者を中心に移り住む人が増えています。移動の理由は「仕事」を一番に上げる人が最も多く「職住近接」を求めていることが分かります。
彼らが都心に住むメリットとして実感しているのは
ア) 職住接近で家族、友人と過ごす時間が増える
イ) 睡眠時間が増える
ウ) 遅くまで仕事ができる
エ) 都心だから買い物、外食に便利
オ)
最新の情報を手に入れることができる
などがあげられます。不満な点として多いのは、「部屋数」「間取り」「収納スペース」「風通し」「日当たり」「耐震性」「住宅周りの敷地の広さ」などがあげられていることから、都心の中で良質な住宅供給が少ないことがうかがえます。
住み替え希望がある人は
ア) 住宅の広さ
イ) 家計における住宅費の割合
の2点を重視して家探しをされていることから「良質でリーズナブルな住宅」をいかに供給していくかがポイントとなります。
大阪府「賃貸住宅に関する府民意識」
大阪府による平成15年度「賃貸住宅に関する府民意識について」の調査結果では、賃貸住宅への入居を検討する理由の上位は、
1.
転勤(39.42%)
2. 結婚(34.31%)
3. 老後(23.84%)
4. 進学または就職(17.76%)
となっています。従来から転勤、新婚需要は大きなウエイトを占めていましたが、老後の生活を考えるうえで、賃貸住宅を検討する理由が上昇しています。
また、同調査の賃貸住宅を探す際の重視項目としては、上位から
1.
家賃(75.91%)
2. 広さ・間取り・収納スペース(34.26)
3. 駅からの距離(31.78%)
4. 周辺利便施設(25.30%)
5.
日当たり・風通し(23.60%)
6. 通勤・通学の便(21.41%)
7. 駐車場の有無(15.09%)
8. 安全性:防犯・耐震性(12.41%)
9.
街のイメージ・雰囲気(9.25%)
10. 自然環境(8.03%)
11. 福祉・医療サービスの受けやすさ(7.54%)
12. インテリア(5.60%)
13.
築年数(4.87%)
14. その他(0.49%)
の順になっています。
これからの需要者は、1家賃、2間取りなど、3利便性を重視しており、築年、自然環境、街のイメージについては優先度が低いです。また、前述の「老後の生活」のウエイトが高いにも関わらず、「福祉・医療サービスの受けやすさ」についても優先度が低かったです。
同調査の「民間賃貸住宅に関して今後特に何が重要であると思いますか」という設問に対して、上位から、
1. 高齢者・障害者など誰もが入居できる民間賃貸住宅の情報の提供(66.42%)
2. 優良な民間賃貸住宅の建設催促(43.80%)
3. 防災・防犯性の向上(43.80%)
4. バリアフリー化の促進(43.07%)
5. 既存民間賃貸住宅のリフォームなどの催促(25.30%)
6. 入居に関する相談(15.57%)
となっており、需要者は自分にとって必要な情報が入手しにくいと感じています。
また、賃貸住宅について防災・防犯性、バリアフリー化などの質の向上を求めています。
賃貸住宅の供給サイドでは新築については設備重視(浴室乾燥機、床暖房など)により偏りがちでありますが、需要は設備よりも間取り、採光、安全性を重視していることからソフト面を充実していくことが求められています。特に今後は「管理」について賃貸住宅の評価が左右されていくものと考察しています。
(財)日本賃貸住宅管理協会
http://www.jpm.jp/
大阪府支部
http://www.e-jpm.com/