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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

建物の管理の瑕疵と賃貸人の責任

第1 総論
賃貸人は、民法606条に基づき、建物の修繕義務を負っております。このため、建物について、賃借人の責めに基づかない理由により破損、汚損、故障等が生じた場合には、賃貸人の責任において建物を修繕する義務を負っております。
ところで、賃貸借契約書には、通常、天災地変等による賃借人の損害については責任を負わない旨の条項が存在しております。このため、天災地変の場合については、契約書上賃貸人は責任を免れる可能性があります。しかし、現在、消費者契約法により免責条項の効力について、否定される危険性が生じている上、民法717条の工作物責任については、免責条項によっても排除することはできません。このため、賃貸人は、建物について、日頃から、維持管理に注意を払わなければならないと共に、保険契約に加入するなどのリスク対策も講じる必要があります。
そこで今回は、賃貸人が建物の修繕に関してどのような責任が発生するかについて、紹介いたします。

第2 建物修繕義務(出典:判例マスター)
賃貸人には、民法606条に基づき建物修繕義務が存するため、その不履行により損害賠償責任を負う場合があります。このため、賃貸人が、修繕義務を怠った場合には、賃料の減額請求や、店舗の場合には、営業上の損失についてまで、損害賠償責任が認められる場合があります。

たとえば、昭和56年3月26日東京地裁判決では、「そもそも、賃貸人は、賃借人に対し、賃借人が賃借物を約旨の用法に従って充分に使用収益することができるように協力すべき債務を負担するものといわなければならない。これを本件についてみるに、前示のとおり、原告は、本件店舗を被告から賃借して、内装工事を施工のうえ、「レストランクラブ〇〇〇〇」の名称で飲食店を営んでいたところ、昭和49年7月7日、浸水事故が発生し営業が不可能になってしまったのであるが、その後の調査により、同月下旬頃には、右浸水が本件店舗の北側のコンクリート壁と床との接線の全体から生じるものであることが判明したのであるから、賃貸人である被告は、速やかに、右浸水を防止するための適切な修繕を行ない原告が早期に営業を再開することができるように措置すべきであつたものといわなければならない。しかるに、被告は、前示のとおり、原告からの再三の要請にもかかわらずこうした措置を講じなかつたばかりか、原告が損害の拡大を防止するために補修工事にとりかかるやそれを妨害する挙に出て、営業の再開を遷延せしめ、また内装補修工事を余儀なくさせたのであるから、被告には、前記債務の不履行があるものといわなければならない」として、賃貸人に修繕義務不履行について損害賠償責任が認められました。

また、平成7年3月16日東京地裁判決では、マンションの排水管の閉塞について賃借人に責任がある場合でも賃貸人において合理的な期間内に修繕すべきであるとして、賃料の3割相当額の支払拒絶が認められております。
以上の通り、賃貸人は、修繕義務を履行しない場合には、賃料の減額や損害賠償責任といった責任が発生する可能性がありますので、日頃からの建物の維持管理にあたっては、突然の多額な修繕費用が発生しないように計画的な建物修繕計画を立てていく必要があります。

第3 建物の設置管理の瑕疵の場合(出典:判例マスター)
次に、建物について故障・破損等の不具合があり、そのために入居者が損害を被った場合には、賃貸人及び管理会社に過失がない場合でも、不法行為上の工作物責任(民法717条)により損害賠償責任を負う場合があります。

たとえば、平成9年12月24日東京地裁判決においては、25歳の男性が賃貸マンション4階から転落死亡した事故につき窓に手すりがなく、腰壁の高さが約40センチメートルしかなかったことが建物の設置保存の瑕疵に当たると判断されております(過失相殺七割)。すなわち、「本件居室の南側窓は腰壁が約40センチメートルしかなく、転落事故を防止するための手すり等も設置されていなかった。本件居室の南側窓のような場合、その腰壁の高さの基準について法的な規制はないが、建築業者の解説書においても、「特に居住用施設では注意を要すべきであり、一般的には下記の形態が望ましい」として、腰壁の高さはおおよそ65ないし85センチメートルを目安とし、窓の内側又は外側に床面から1.1メートル以上の高さに手すりを設置することが推奨されているのであって、前記のような本件居室の南側の構造は、転落事故防止の観点からみて、居住用施設として通常備えるべき安全性を欠いているものというべきである。被告は本件事故後、本件居室の南側窓の床面から60.5センチメートル、83.5センチメートル及び107センチメートルの3箇所に横に鉄パイプを設置したが、右のような措置が本件事故前に講じられていたならば、本件事故の発生は防止することができたと考えられる。以上によれば、本件事故は本件居室の南側窓部分の設置保存の瑕疵に基づくものというべきであるから、本件居室の賃貸人である被告は、本件建物の占有者として、民法717条に基づき、原告らに対して後記損害を賠償すべき義務がある」という判断が示されております。

また、昭和49年1月18日大阪高裁判決においては、排水管からの漏水事故について「本件排水本管は、本件団地建物内に附属して設置され、5階から1階まで縦に貫通し、各階の各室の台所の流しと排水枝管をもつて接続し、下部は横走り排水管を経て下水管に接続していることが明らかであり、本件排水本管は、本件団地建物の一部をなす設備であって、民法717条1項にいわゆる土地の工作物に該当するものということができる。〈中略〉本件排水本管は、定期的に清掃をしなければ、10年位で排水不能になるものであるにもかかわらず、被控訴人公団は、昭和31、2年頃本件団地建物を建設して以来、約8,9年間本件排水本管を一度も清掃したことがなく、昭和40年12月に至り、カンツール工法による清掃をしたが、その清掃は甚だ不充分なものであつたことが明らかである。ところで、民法717条1項にいわゆる「土地の工作物の保存に瑕疵がある」とは、土地の工作物が維持、管理されている間に、その物が本来具えているべき性質を欠くに至ったことを指すものであり、本件排水本管についていえば、排水設備として通常有すべき機能が十分でなくなることをいうと解するのが相当であるところ、本件漏水事故は、前記のように本件排水本管の汚水が逆流して生じたものである以上、本件排水本管の保存に瑕疵があったものといわざるを得ない。そうだとすると、本件排水本管の占有者であり、所有者である被控訴人公団は、所有者として、本件漏水事故により後に認定するような損害を蒙った控訴人両名に対し、損害賠償をなすべき責任があるといわなければならない。この場合、被控訴人公団側に過失の存在を必要としないことはいうまでもなく、また前叙認定に照し、本件漏水事故が不可抗力であったことは到底認め難い。そして当時被控訴人公団に排水管清掃費用の予算措置が無かった、居住者らが負担するいわゆる共益費も右費用を予定していなかったことなどは、被控訴人公団の右損害賠償責任を免れさせる理由とはならない」と判断して、賃貸人である公団に対して、損害賠償責任を認めました。

さらに、平成9年2月10日東京地裁判決では、アパートの外階段の崩落により居住者を訪問するため昇っていた者が負傷した事故につき、次の通りアパート所有者の責任を認め、管理人の責任を否定しております。すなわち、「本件階段は、本件建物の一部を構成し、民法717条1項の土地工作物に該当するところ、踏面及び蹴上げ部分と左右ササラ桁並びに各踏面及び蹴上げ部分との接続部分は、本来であれば全面溶接すべきであるのに、点溶接のみで固定されており、元々十分な構造耐力を有していなかったものが、時間的経過とともに右溶接部分の腐食、分離が進行し、偶々原告及び乙山の通行中に耐力の限界を超えて本件事故が発生したものと認められ、本件階段が階段として通常備えるべき安全性を欠いていたことは明らかであるから,その設置に瑕疵があったものというべきである。本件事故は、本件階段の踏面鉄板及び蹴上げ鉄板とササラ桁の接続面並びに各踏面鉄板と蹴上げ鉄板との接続面が、本来は全面溶接すべきところ、点溶接のみで固定されていたというのであるから、溶接工事の手抜きに起因するものと考えられる。そして、本件階段は接続面も含めて外観はセメント仕上げとなっており、その接合状況は外部からは全く見えなかったこと、本件事故当時、本件階段を含む建物は完成後13年しか経過していないことは、前記認定のとおりである。右のような状況下で、階段が通常の使用で落下するなどということは、一般に考え難く、建物の管理人である被告〇〇において、建物建築工事に右のような手抜きがあることを予測し、これが原因で本件事故のような落下事故の発生を予見し、右事故の発生を未然に防止するため、本件階段の瑕疵の存在を発見してこれを修補することを期待することはできない。本件階段を含む本件建物の外階段の継ぎ目部分に、錆痕跡や腐食、隙間が認められたことは前示認定のとおりであるが、このことも右認定を左右しない。右瑕疵のほかに、被告Wにおいて本件階段の設置及び管理に過失があったことを認めるに足る証拠はない。したがって、被告〇〇は、民法717条1項に基づく責任を負わないが、被告M産業は本件階段の所有者であるから、占有者として右設置及び管理に過失がなかったとしても、原告が本件事故により被った損害については、民法717条1項但書により損害賠償責任を免れない」と判断しました。この判例から、管理会社であっても、占有者として事故発生を予見することができたのであれば、民法717条の工作物責任を負う可能性があることが分かると思います。

第4に、神戸地裁平成11年9月20日判決においては、阪神・淡路大震災により賃貸マンションの1階部分が倒壊し、賃借人が死亡した事故について、賃貸人・所有者の土地工作物責任を肯定し、損害賠償額の算定に当たって、自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌し5割の限度で土地工作物責任を認めております。

第4 建物の瑕疵についてのまとめ
以上の判例で示されているとおり、賃貸人が賃貸建物の修繕や維持管理を怠っていると、ある日突然莫大な損害賠償責任が降りかかってくることになるということがよく分かるかと思います。このような目に遭わないようにするためには、日頃から、建物の計画的な修繕や、定期的な点検・補修を続けていくことが非常に大事になってきますし、賃貸経営の計画において、修繕費用や維持管理費用を予算として計上しておくことは、必須の事項であることがよく分かると思います。
しかし、さらに不測の損害賠償責任に備えるためには、火災保険や施設賠償責任保険に加入したり、建物の耐震補強を行うなどのリスク回避策も講じておく必要もありますので、現在経営している賃貸物件においては、どこまでリスク対策を講じているのか一度確認しておくことをお勧めします。

2009.05/12

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修