株式に関する改正点
今回新設された会社法においては、株式及び株主総会についても、これまでの商法に比べて少なからぬ改正点があります。そこで、今回は、株式制度を中心とした改正の内容について説明致します
株主平等の原則の明文化
新会社法により、これまで明文で定められていなかった株主平等の原則が明文化されました。
そして、株式の内容及び数ごとの平等に取り扱うべきこと、異なる内容の種類株式については異なる扱いができること、同じ内容の株式については株式数に応じて平等に取り扱うべきことが明確化されました。
その反面、非公開会社においては、株主平等原則の例外として、1剰余金の配当を受ける権利、2残余財産の分配を受ける権利、3株主総会における議決権については、株主ごとに異なる取扱を行うことができるという定めも設けられました。
少数株主権・単独株主権
これまで、少数株主権の行使要件の基準として議決権を基準としていたものを、今回の改正により下記の場合には株式数を基準に加えることとされました。
1帳簿閲覧請求権
2業務財産調査のための検査役選任請求権
3解散請求権
4取締役等の解任請求権
また、単独株主権に関しては、今回の改正により、株主総会に関し、株主が議決権を行使できる事項については、下記の権利を株主の単独株主権として保障しました。
1議決権行使書面・代理権を証する書面等の閲覧・謄写請求
株式の内容と種類の整理
今回の改正により、株式会社が発行する株式の全部が均一の内容であるときは株式の内容、株式の一部が異なる内容であるときは株式の種類として扱うこととされ、株式の種類の概念が統一・整理されました。
そして、種類株式を発行する株式会社は、種類株式発行会社と定義され、定款に種類株式の発行を定めていれば種類株式発行会社になるとされた。
また、議決権制限株式について、非公開会社では発行制限が撤廃された。
株式譲渡制限
今回の改正により、一部の種類の株式についてのみ譲渡制限することも可能であることが明文化されました。
譲渡の承認機関は、取締役会が設置されている会社では取締役会、それ以外の会社は株主総会とされました。
定款の定めにより、譲渡制限をつけた上で、一定の場合には承認を要しないこととすることや、譲渡による取得が承認されなかった場合の先買権者をあらかじめ指定しておくことができるとされました。
種類株主の保護のため、一定の種類の株式に譲渡制限を加える定款変更決議をするためには、その種類株主総会と、その種類の株式に転換する取得請求権付株式又は取得条項付株式の種類株主総会の決議が必要であると定められました。
種類株主総会のその決議要件は、その種類の株主の半数以上で、かつ、その種類の株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要であると定められております。
さらに、譲渡制限株式については、定款の定めにより、相続・合併等の一般承継により株式を取得した者に対して、株式会社がその株式の売り渡しを請求することができるとされました。
自己株式の取得
自己株式については、共益権及び自益権について下記の場合には権利が認められないことを明らかにしました。
1株主総会議決権、2剰余金配当請求権、3残余財産分配請求権、4募集株式の割当を受ける権利、5募集新株予約権等の割当を受ける権利、6合併等の場合に株式の割当を受ける権利
自己株式の取得方法として、これまで、1市場取引による場合、2公開買付による場合、3株主総会の特別決議にによる特定の株主からの買い受けによる方法がありましたが、3の取得方法について、今回の改正では、i
全ての株主からの申込みを受ける場合と ii 特定の株主からの取得の場合に分け、i 全ての株主からの取得の場合には、普通決議で足り、且つ臨時総会でも決議できるとされ、ii
特定の株主からの取得の場合には当該株主以外の株主による特別決議が必要であると定められました。
子会社による親会社の株式取得
親子会社の定義について、今回の改正により対象となる法人を株式会社に限定せず、その判断要件については、議決権の過半数という形式的基準ではなく、実質的に支配しているか否かという基準によるものとされました。
1子会社とは、今回の改正で、会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいうとされました。
2親会社とは、今回の改正で、株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいうとされました。
そして、子会社が、親会社の株式を取得することが原則として禁止されることはこれまでどおりですが、例外として認められる場合について次のとおり定められました。
(1) 他の会社(外国会社を含む)の事業の全部を譲り受ける場合に譲渡会社が有する親会社株式を譲り受ける場合。
(2) 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
(3)
吸収分割または新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合。
(4) その他法務省令で定める場合。
取得請求権付株式等
今回、これまでの特殊な株式が整理されて、取得請求権付株式と取得条項付株式の制度が設けられました。
取得請求権付株式とは、株式会社に対して株主がその有する株式の取得を請求することができる内容の株式をいい、これまでの転換予約権付株式や義務償還株式が整理されたものです。
取得条項付株式とは、株式会社が、株主の同意無しに一定の事由が生じたことを条件として、株主の有する株式を取得することができる内容の株式をいい、これまでの強制転換条項付株式がこれにあたる。
種類株主総会
種類株主総会について、定款の変更によってある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすときは、当該種類株主の総会決議が必要となりますが、その種類株主総会が必要となる場合としては下記事由に限定されました。
1株式の種類の追加、2株式の内容の変更、3発行可能株式総数または発行可能種類可能株式総数の増加
株式の消却の改正
株式の消却には、これまで自己株式の消却と強制消却(利益による消却と減資による消却)があったが、今回の改正により、自己株式の消却と株式の取得に改正され、強制消却はなくなりました。
また、これまでは、株式を消却・併合すれば、授権株式数を減少する旨の定款変更がなされたものと見なされてきましたが、今回の改正により、株式を消却しても、発行可能株式総数は減少しないこととされました。
株式の無償割当
今回の改正により、株主に払込をさせないで株式を割り当てる株式無諸割当の制度が新設されました。株主に払込をさせない点で募集株式の割当と異なり、異なる種類の株式でも割り当てられる点、自己株式には割り当てられない点で株式分割とは異なります。
株主名簿
株主名簿については、1株主の株主名簿の名義書換の請求手続を明文化しました。また、2株式会社が株式を発行した場合についての株主名簿への記載の規定を新設しました。さらに、3株式会社が自己株式を取得する場合及び株式会社が自己株式を処分する場合について、株主からの申請無しに株主名簿の記載事項を変更しなければならないこととしました。また、4譲渡制限株式について、株式会社が譲渡を承認しない場合には株式の取得者が名義書換を請求できないことを明文化しました。そして、5これまでの名義書換代理人が株主名簿管理人に代わり、株主名簿、株券喪失登録簿、新株予約権原簿の作成、備置、名義書換等の管理を受託するものとされました。
議決権に関する基準日についても、今回の改正により、基準日以後に株主になった者に対しても、会社は、その株主の議決権の行使を自由に認めることができることとなりました。
株主の株主名簿・新株予約券原簿及び社債原簿の閲覧・謄写請求権について下記の場合には拒絶できることを明文化しました。
1株主の権利の確保又は行使のための請求ではないとき。2株主が書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を、利益を得て他人に通報するために請求したとき。3請求の日の前2年以内に、その会社または他の会社の書類の閲覧・謄写によって知り得た事実を、利益を得て他人に通報した者が請求したとき。
端株制度の廃止
端株とは、株式の一株に満たない端数を有する者に対して議決権以外の一定の権利を与える制度ですが、今回の改正により廃止され、単元株式制度に統一されました。
単元未満株主について、これまでの単元未満株主に加えられている制限に加え、定款による制限も広く認められた結果、これまでの端株主の権利に近い内容になりました。
また、株式分割と同時に1単元の株式数を増加する場合又は1単元の株式数を設定する場合であって、かつ以下の要件を満たすときは、当該1単元株式数の増加又は設定にかかる定款変更は、株主総会の決議によらないで行えることとなりました。
分割後に株主が有する株式数
> 分割前に有していた株式数
分割後の1単元株式数 = (単元株式数を定めていた場合は当該株式数を単元株式数で割った数)
株券
これまで株券を発行することが原則とされてきましたが、今回の改正により株券を発行しないことが原則とされました。この結果、株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社は株券発行会社と呼ばれることとなりました。
以下、次号に続きます。