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公認会計士・友弘正人先生の税制ノウハウ

事業承継に活用する ~拒否権付株式(黄金株)~

買収防衛策の導入企業が一段と広がっているという記事が日経新聞に載っています。5月22日までに防衛策を導入した企業は全国上場企業の、ほぼ10社に1社となっています。5月の三角合併解禁を受け、鉄鋼や薬品を中心に一気に導入社数が膨らんだ模様です。少し待って下さい。これは上場企業だけの問題でしょうか。われわれ中小企業の事業承継は、企業防衛策そのものを必要としています。なぜなら、事業承継とは後継者に支配権を譲り、後継者を他から守ることだからです。

最近、敵対的買収防衛策として、ポインズンピル(毒薬条項)や黄金株(拒否権付株式)等が外資の株買占めニュースとともに新聞紙上を賑わしています。買収に備えて買収防衛策を講じておくのは、何も新聞報道される上場企業だけの問題ではありません。中小企業にとっても、まさに会社法で整備された種々の企業防衛策を活用し、経営者の支配権にゆるぎのない磐石な会社にして、後継者に事業を承継することが大切です。平成18年5月施行の会社法では、種類株式が大きく整備されましたので、それを賢く活用していくことが期待されています。 そこで、今回は、種類株式の中の拒否権付株式の事業承継における活用について考えてみます。

種類株式とは

会社法は株式の内容は原則的に普通株式であることを前提としつつ、会社が株式について、例外的に普通株式と異なる内容を定めることができる場合を定めています。株式の内容の異なる2つ以上の種類の株式を発行する場合の株式を「種類株式」と一般に呼んでおり、会社法では次の表に掲げた9つの事項につき、内容の異なる種類の株式を発行することを認めています。

 

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会社はこの9種類の内容を組合せた株式を発行することができます。
会社の目的や現在状況、将来のあるべき方向を見据えたその組合せは無限大です。種類株式をうまく活用することにより、会社独自の事業承継に利用できます。

 

拒否権付株式(黄金株)とは
拒否権付株式とは、株主総会又は取締役会で決議すべき事項のうち、当該決議のほかに当該拒否権付株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものをいいます。会社がこの種類株式を発行すると、会社法上、株主総会や取締役会の決議で決定できる事項について、その決議とは別に種類株主総会の決議をすることが要件となりますので、当該種類株主にその事項について拒否権を与えたのと同じ結果になります。会社が拒否権付株式を発行する場合は、定款に次の事項を定めることが必要です。

1当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項。
2当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときはその条件。

このような定款の変更を行う場合は、特別決議が必要です。
拒否権付株式は、拒否権の発動により経営監視機能を有することになります。
また、拒否権付株式の発行は、拒否権の項目の中味によっては種類株主にオールマイティな権限を与えることとなります。

反面、拒否権が認められる事項を容易に広げすぎると、会社が機能不全に陥る危険性がないともいえません。注意すべきは拒否権を与える事項の範囲を何と何に決定するかを適切に判断することです。

このように、中小企業の事業承継では拒否権付株式をオーナーや後継者に一株だけ発行しておけば、会社を防衛できる切り札となります。

事業承継で想定される拒否権付株式の活用方法

1オーナーが後継者に株式を全部委譲し、株式の財産権と経営権の承継は生前に完了しているが、オーナーが拒否権付株式を保持し続け、後継者の経営を監視サポートする。
2オーナーに相続が発生したが、後継者が若年のため番頭さんが拒否権付株式を保持して、後継者の経営を監視サポートする。
3相続が発生する前に、取締役選任及び解任等一定の重要事項につき、拒否権を持つ株式を一株発行してオーナーが引受けておき、後継者にその拒否権付株式を相続させる。
4後継者以外の相続人に議決権制限株式を相続させる代りに、経営に対して一定の歯止めを確保する権利として、重要資産売却、合併承認等の一定の重要事項につき拒否権を付けて納得させる。

不測の事態に対処して
拒否権付株式が不測の事態により第三者に移転することのないよう、次の措置を講じておくことも必要です。例えば、4-2の番頭さんや4-4の後継者以外の相続人に拒否権付株式を持たせる場合は、

(イ)停止条件をつける
番頭さん等に相続が発生する事態に備えて「一代限りとする」停止条件をつける。

(ロ)譲渡制限をつける
株式譲渡の承認は株主総会又は取締役会ですが、定款で代表取締役と定めることもできます。この譲渡制限には「相続その他の一般承継(合併など)」は含まれません。

(ハ)売渡請求をつける
相続その他の一般承継により当該株式(譲渡制限株式に限る)を取得した者に対し、株式を当該会社に売渡すことを請求できる旨を定款で定めることができます。

(ニ)取得条項をつける
株式会社が株主の同意なしに一定の事由が生じたことを条件として、株式を取得することができます。

拒否権付株式の税務上評価について
平成19年度の税制改正で活用が期待される次の典型的な3類型、すなわち、第1類型(配当優先の無議決権株式)、第2類型(社債類似株式)、第3類型(拒否権付株式)の種類株式のみ、相続税法上の評価方法が明確になりました。しかし、その他の種類株式については、上記を参考にして個別評価することになっています。従ってその評価は非常に困難です。

ちなみに、拒否権付株式の評価は普通株式と同様の評価を行うことが明確になっています。拒否権付株式については、実態上、経営監視機能のために一株だけ所有しておけば事足りるので、拒否権付株式の発行は一株に留め、他の財産価値のある株式は生前に後継者等に移転する事業承継対策をしておけば、拒否権付株式の評価方法が相続財産評価額に与える影響は小さいと思われます。

まとめ
以上、種類株式のうち拒否権付株式について、中小企業の事業承継で活用されるケースを記述しましたが、その他の種類株式の活用方法も多種多様です。会社法により種類株式が整備され大いに活用が期待されていますが、何しろ、まだほとんど実例を聞きませんし、税務上もその取扱いが明確になっていません。拙速な判断はかえって混乱を招きますので、会社の将来のあるべき姿を充分見据えた慎重な取扱いをすべきと思います。

2007.07/17

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友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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