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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

原状回復ガイドラインの改正について

【1】原状回復ガイドラインの改正
平成16年に改正されました原状回復ガイドラインが、今年再び改正されることとなりました。まだ、正式な発表はありませんが、国土交通省において改正案が下記のホームページ上で公表されております。
http://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000059.html
原状回復ガイドラインが変更になれば、契約書の改訂、原状回復に関する社内基準の見直し、賃借人や消費者への説明の変更、明渡立会確認作業の見直し、修繕計画や修繕費用割合の見直し等賃貸経営に関わる多岐の変更が余儀なくされます。
したがって、今回の変更点を予め知っておくことは賃貸業務において極めて重要であると思いますので、ご紹介いたします。

【2】入退去時の物件状況及び原状回復確認リストの訂正
入退去時の物件状況及び原状回復の確認リストについて、入居時における各設備の交換年月の記載が新たに設けられた上、郵便受け、タオル掛け、TV電話端子等の設備項目が追加されました。

 

【3】原状回復時の条件の開示

ガイドラインの解説においては、「賃貸人・賃借人の修繕負担、賃借人の負担範囲、原状回復工事施工目安単価などを明記している原状回復条件を契約書に添付し、賃貸人と賃借人の双方が原状回復条件についてあらかじめ合意しておくことが重要である。賃貸人は、賃借人に対して、本ガイドラインを参考に、明け渡しの際の原状回復の内容等を具体的に契約前に開示し、賃借人の十分な確認を得たうえで、双方の合意により契約事項として取り決める必要がある」として、契約書に添付する原状回復の条件に関する様式を新たに定めています。

【4】原状回復特約について

ガイドラインに定める賃借人に特別の負担を課す特約の要件は、これまで通り次の3要件となっています。

  1. 1.特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 2.賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 3.賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

なお、ガイドラインの解説においては、最高裁判例及び消費者契約法を示して、上記の要件の必要性を以下のとおり説明しています。

 

特に、最高裁判例では、「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されている。
また、消費者契約法では、その第9 条1 項1 号で「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法10 条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されている。
したがって、仮に原状回復についての特約を設ける場合は、その旨を明確に契約書面に定めた上で、賃借人の十分な認識と了解をもって契約することが必要である。また、客観性や必要性については、例えば家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、こうした義務を賃借人に課すような場合等が考えられるが、限定的なものと解すべきである。


また、原状回復特約を定めた場合に、契約締結時における原状回復費用の開示を要求しているのも今回の改正点における大きな特徴です。すなわち、ガイドラインにおいては、「金銭の支出を伴う義務負担の特約である以上、賃借人が義務負担の意思表示をしているとの事実を支えるものとして、特約事項となっていて、将来賃借人が負担することになるであろう原状回復等の費用がどの程度のものになるか、単価等を明示しておくことも、紛争防止のうえで欠かせないものであると考えられる。」と解説しています。

 

【5】物件・設備の使用上の注意・留意事項の周知について

今回のガイドラインの改正においては、使用細則等の賃貸住宅の使用上の注意義務についても触れられています。すなわち、ガイドラインの解説には、「賃貸住宅の居住ルールなどについては、「使用細則」、「入居のしおり」などによって周知されている場合が多いが、その際に、原状回復に関係する物件・設備についての使用上の注意・留意事項についてもあわせて周知することが、原状回復にかかるトラブルの未然防止にも役立つものと考えられる。具体的には、用法の順守、日常的な手入れや清掃等の善管注意義務、設備の使用上の注意事項などを盛り込み、周知することが考えられる。」と説明されています。

 

【6】損耗・毀損事例区分の改正

今回の改正では、損耗・毀損事例区分について、タバコのヤニによる汚れについての基準が変更になり、クロス等が変色していれば通常の使用による汚損を超えるという記載になりました。また、ペットによる臭いについても新たに追加され、鍵の紛失や戸建ての場合の庭の植栽についても記載が追加されています。
このように、損耗・毀損区分についても細かく変更が加えられているため、その内容を正確に確認する必要があります。

 

【7】経過年数の改正

これまで賃貸住宅内の設備については耐用年数が6年又は8年により残存価値10%まで減価される考え方を採っていました。
しかし、今回の改正により、ガイドラインの解説によれば、「経過年数による減価割合については、従前より「法人税法」(昭和40年3月31日法律第34号)及び「法人税法施行令」(昭和40年3月31日政令第97号)における減価償却資産の考え方を採用するとともに、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号) における経過年数による減価割合を参考としたとして、償却年数経過後の残存価値は10%となるようにして賃借人の負担を決定してきた。これによると、しかしながら、平成19年の税制改正によって残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、例えば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値10%1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定する。よって、年数が経つほど賃借人の負担割合は減少することとなる」と改正されました。
したがって、賃借人に対する修繕費の請求についても、これまでの残存価値10%の計算式から残存価値1円の計算式に変更する必要がありますので、注意して下さい。

 

【8】退室時の費用の開示

さらに、今回、賃貸住宅管理業登録制度の実施を想定して、原状回復の精算明細等に関する様式も新たに定められています。これまで、原状回復の際に、費用の明細を退室した賃借人に渡していなかった不動産業者または賃貸人も、今回のガイドラインの改正により、原状回復費用の明細を交付することが明確に記載されておりますのでご注意下さい。すなわち、ガイドラインの解説では、「賃貸人は賃借物の明け渡しまでに生じた未払賃料や損害賠償債務などを差し引いた敷金の残額については、明け渡し後に賃借人に返還しなくてはなりません。賃貸人が、敷金から原状回復費用を差し引く場合、その具体的根拠を明らかにする必要があり、賃借人は原状回復費用の内容・内訳の明細を請求し、説明を求めることができます。」と記載されております。

 

【9】結語

以上のとおり、今回の原状回復ガイドラインの改正は、平成16年時の改正よりも大きな改正点があり、特に契約時の契約条件等の開示については、早急に対応について検討する必要があるのではないかと思います。その意味でも、まだ、正式に成立していない現時点から早めに準備をすることをお勧めします。

2011.07/12

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修