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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

高齢者居住安定法の改正について

【1】高齢者居住安定法の改正
高齢者の居住の安定確保に関する法律(以下「高齢者住まい法」といいます)が、平成23年4月27日、参院本会議で全会一致で可決され成立しました。公布後6か月以内に施行される予定です。
高齢者向け賃貸住宅については、これまでも高齢者住まい法により終身賃貸借契約の制度や、高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)及び高齢者専用賃貸住宅(高専賃)の制度がありましたが、これまでの高齢者向け賃貸住宅は、医療・介護事業者との連携が不十分であり、制度上、生活支援サービスの提供は任意であったため、入居中に介護が必要となった場合に、再度の住替えが必要となるケースが少なくありませんでした。また、高齢者向け賃貸住宅については、行政の指導監督が不十分で、特にサービス部分についての行政の指導監督権限や事業者の情報開示のルールがないと言う点も指摘されていました。また、現状では、高齢者に適した住まいが絶対的に不足している上、高齢者の住まいの制度が複雑となっており、利用者にとっても利用し難いものでした。
そこで、今回高齢者住まい法の改正がなされ、高齢者向け住宅について、より一層利用しやすい制度になるように改善が図られました。今回の改正の主な点は以下のとおりです。

【2】改正の概要

1.「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度の創設
  1. (1)高齢者向けの賃貸住宅又は有料老人ホームに高齢者を入居させ、状況把握サービス、生活相談サービス等の高齢者が日常生活を営むため必要な福祉サービスを提供する事業を行う者は、都道府県知事の登録を受けることができることとされました。
  2. (2)都道府県知事は、登録の申請が、規模・構造・設備、サービス、契約内容等に関する一定の基準に適合していると認めるときは、その登録をしなければなりません。
  3. (3)登録を受けた事業者に対し、誇大広告の禁止、登録事項の公示、契約締結前の書面の交付及び説明等を義務づけられました。
  4. (4)登録を受けた場合には、老人福祉法に規定する有料老人ホームに係る届出義務を適用除外されることとなりました。
2.終身建物賃貸借制度の見直し
  1. (1)事業の認可基準について、終身賃貸事業者が、賃貸住宅の整備をして事業を行う場合にあっては、当該整備に関する工事の完了前に、敷金を受領せず、かつ、終身にわたって受領すべき家賃の全部又は一部を前払金として一括して受領しないものであることを追加する等資力信用要件等の廃止の改正がなされました。
  2. (2)都道府県知事は、認可事業者が破産手続開始の決定を受けたときその他終身建物賃貸借の賃借人(賃借人であった者を含む)の居住の安定を図るため必要があると認めるときは、当該賃借人に対し、他の適当な賃貸住宅に円滑に入居するために必要な助言その他の援助を行うように努めるものとされました。
3.高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度等の廃止
  1. 高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度、高齢者向け優良賃貸住宅の供給計画の認定制度及び高齢者居住支援センターの指定制度が廃止され、サービス付き高齢者向け住宅に一本化されました。
4.その他の改正点
  1. (1)公営住宅の活用
    サービス付き高齢者向け住宅を、公営住宅の目的外使用の対象としました。
  2. (2)老人福祉法との調整規定
    サービス付き高齢者向け住宅として登録を受けた場合には有料老人ホームの届出不要となりました。なお、地方公共団体による高齢者向けの優良な賃貸住宅制度は存続します。
  3. (3)高齢者居住支援センターの指定制度の廃止
  4. (4)国・地方公共団体による高齢者の住宅に係る情報提供の努力義務
    国・地方公共団体によるサービス付き高齢者向け住宅への支援措置が定められました。
5.高齢者住まい法の改正に併せた法律改正等
  1. (1)地域住宅特別措置法の改正
    サービス付き高齢者向け住宅の整備について地方公共団体に対する交付金に加えて、公営住宅建替事業により新たに整備すべき公営住宅の戸数要件が緩和されました。
  2. (2)住宅金融支援機構法の改正
    サービス付き高齢者向け住宅とするための既存の住宅の購入資金貸付けがリバースモーゲージ(死亡時一括償還型融資)の場合にも認められるようになり、また、担保要件が緩和されました。
  3. (3)税制による支援措置(案)の概要
    サービス付き高齢者向け住宅について、平成25年3月31日まで、賃貸借契約によるものに限り、所得税・法人税、固定資産税、不動産取得税について税制上の特例が適用されます。

【3】サービス付き高齢者向け住宅の登録制度の概要

登録基準(※有料老人ホームも登録可)
  1. (1)ハード面
    ・床面積は原則25m2以上・構造・設備が一定の基準を満たすこと
    ・バリアフリー(廊下幅、段差解消、手すり設置)
  2. (2)サービス面
    ・サービスを提供すること(少なくとも安否確認・生活相談サービスを提供することが必要)
    ・サービスの例:食事の提供、清掃・洗濯等の家事援助等
  3. (3)契約内容
    ・長期入院を理由に事業者から一方的に解約できないこととしているなど、居住の安定が図られた契約であること。
    ・敷金、家賃、サービス対価以外の金銭を徴収しないこと。
    ・前払金に関して入居者保護が図られていること(初期償却の制限、工事完了前の受領禁止、保全措置・返還ルールの明示の義務付け)。
  4. (4)サービス付き高齢者向け住宅において提供されるサービスの内容
    ・サービス付き高齢者受託として登録されるためには、居住+安否確認・生活相談サービスを提供することが必要となります。
    ・それ以外のサービスである、医療サービス、介護サービス、食事提供、清掃、洗濯等は要件となっていません。
    ・また、住み慣れた環境で必要なサービスを受けながら暮らし続けるために、24時間対応の訪問看護・介護サービスを受ける定期巡回随時対応サービスについては介護保険法改正により創設される予定となっています。

【4】改正に関するまとめ

今回の高齢者住まい法の改正により、高齢者向けサービスについても、賃貸住宅であっても一定のルールが設けられるなど整備が図られました。また、これまで、複雑であった高齢者向けの賃貸住宅が、今回の改正によりサービス付き高齢者向け賃貸住宅として一本化され、厚生労働省との共同所管により、老人ホームとの整合性も図られました。今後、益々増加することが予想される高齢者向け賃貸住宅については、高齢者住まい法の適用は避けることはできないと考えられますので、今回の改正について十分に検討することをお勧めします。
2011.06/14

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修