夫婦の一方が亡くなった後、残された配偶者が住み慣れた住居で生活を続けるとともに、老後の生活資金として預貯金等の資産も確保できるように新設された制度です。
配偶者居住権の権利は建物や土地の所有権を取得するよりも低い価額となるため、その分の預貯金等の資産を多く確保することができ、かつ無償で終身の間または一定期間自宅に住むことができます。
(例) 自宅4,000万円 預貯金4,000万円(相続人は配偶者と子1人)
1.配偶者が自宅を所有権で取得
2.配偶者が自宅を居住権で取得
配偶者居住権を設定するためには下記の要件を満たす必要があります。
1.被相続人が自宅建物を所有しており、配偶者以外の者と共有していないこと
※例えば建物に同居している長男が共有の場合は設定できません。
2.相続開始時に配偶者が自宅に住んでいること
※相続開始時に既に老人ホームに入居している場合は原則として設定できません。
3.遺産分割協議または遺言・死因贈与で取得すること
配偶者居住権の建物やその敷地(土地)の評価は、建物や土地の全体の相続税評価額から一定の算式で求めた所有権の評価を控除して計算します。
計算式は下記の通りです。
1.建物(居住権)の計算式
2.土地(敷地利用権)の計算式
具体的な計算例(配偶者居住権が終身の間である場合)
前提
自宅建物の相続税評価額1,000万円 自宅土地の路線価評価3,000万円
建物は木造の耐用年数22年(建築後20年経過)
相続開始時の妻の年齢75歳(平均余命16年)
民法の法定利率が3%の平均余命(存続年数)16年の複利現価率0.623
1.建物の評価額
※1...13年=(22年(法定耐用年数)×1.5)ー20年(経過年数)
居住用建物の耐用年数は、法定耐用年数の1.5倍として計算します。
※2...13年ー16年=0となるため建物相続税評価額=配偶者居住権の評価額となります。
2.土地の計算式
3.配偶者居住権の相続税評価額合計1.+2. = 2,131万円
1.小規模宅地等の特例適用
土地のうち被相続人が居住していた土地は特定居住用宅地等として配偶者または一定の 要件を満たす相続人が取得した場合に、330m2を上限に80%減額できる規定(小規模宅地等の特例)があります。
配偶者居住権の敷地(土地)についても、配偶者が取得するため無条件で小規模宅地等の特例を適用することができます。
また、敷地の所有権部分を相続した人が同居親族等の一定の要件を満たせば、所有権部分についても小規模宅地等の特例が適用できます。
2.二次相続時の配偶者居住権
一次相続で配偶者が配偶者居住権を取得した後、その配偶者が亡くなった場合には配偶者居住権は消滅することになるため配偶者の相続財産ではありません。
一次相続で配偶者居住権を設定することで、二次相続まで考えた場合は相続税が節税になることもあります。
新民法では「居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。)に対し、配偶者居住権の登記を備えさせる義務を負う」と規定されているため登記は必要です。配偶者居住権の登記は配偶者と所有者の共同申請で行います。
もし登記をしていなければ所有者が建物を第三者へ売却してしまった場合に、新しい買主から退去を求められたとしても対抗することができません。居住権の登記をしておくことで安心して住み続けることができます。
配偶者居住権については制度上の取り扱いについて見てきました。過去に遺言書を書いた方で配偶者居住権を使いたい場合は遺言書の書き直しが必要です(令和2年4月1日以降に書いた遺言書から有効)。これを機会に遺言書の見直しをされてみてはいかがでしょうか。
ただし、配偶者居住権は配偶者の保護を目的に創設された制度ですが、配偶者居住権を使わない方がよいケースもあります。今後の自宅の利用をしっかりと考えたうえで検討して頂きたいと思います。