【1】はじめに
平成25年度税制改正により相続税の基礎控除が大幅に縮小されました。(平成27年1月1日以後の相続から適用)
これまでの基礎控除:5,000万円+1,000万円×法定相続人
平成27年1月1日以後の基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人
相続税について少しでも関心のある方は切実に感じておられると思いますが、今回は少し視点を変えて遺言書の重要性について説明したいと思います。
【2】遺言書の重要性
「相続税?...うちは関係ないなあ」とタカをくくられていませんか?
ここに興味深いデーターがあります。
- (1)遺産分割をめぐる裁判の件数割合を相続金額別に見てみると以下のようになります。
遺産額1,000万円超から5,000万円以下...44.0%
遺産額1,000万円以下...29.1%
遺産額1億円以下...14.3%
遺産額5億円以下...7.7%
遺産額5億円超...0.6%
遺産額不明...4.3%
- (2)遺産分割をめぐる裁判の件数割合を審理期間別に見てみると以下のようになります。
1か月以内...3.4%
3か月以内...11.5%
6か月以内...22.6%
1年以内...29.7%
2年以内...22.1%
3年以内...6.1%
3年超...4.6%
(最高裁判所が出している「平成19年度版司法統計年報」)
遺産分割事件のうち、73%(18年度は71%)が遺産額5,000万円以下で裁判沙汰(争族)になっています。
また審理期間が7カ月以上の割合も70%を超えています。
仮に遺産額が5,000万円でしたら、今回の改正により相続税申告の可能性が有りますが改正前は関係が有りませんでした。
申告不要=納税無し≒何の問題も無いとまでは言いませんが、想像していた以上の上記の数値に驚きを禁じ得ません。法律改正が云々以前の問題が発生しています。これからもこの傾向は続いていくものと思われます。
現実的には少額の遺産で親兄弟姉妹等が争っています。(相続=争族) 基礎控除が変わっても変わらなくても全く関係のない悲劇がここにあります。
例えば、お父さん(被相続人)がこの争族の可能性に気づいて遺言書を作成していたら73%という数値はもっと少なくなるのではないかと思われます。極論すれば財産が有る無しに拘わらず、遺言書の作成は、お父さん(被相続人)の家族等(相続人等)に対する大きな責任であると断言しても良いのではと考えます。
【3】遺言書とは
-
遺言書とは、被相続人(例えばお父様)が相続人(家族等)に対し、最後の意思表示を伝える重要な書面です。遺産の多寡に拘わらず家族同士がもめないように、また、トラブルが起きないようにするために欠かすことが出来ないものです。遺言書には下記の3種類が有ります。今回は特に公正証書遺言書を中心に触れてゆきたいと思います。
<遺言書の種類>
- 自筆証書遺言...
-
自分で紙に書き記す遺言書のことで最低限の紙、ペンと印鑑でも有れば誰でも気軽に作成が可能で費用もかからないものです。そのため遺言書としては一番多く利用されています。
- 公正証書遺言...
-
公証人が公正役場で法律の規定に従い遺言書を公正証書として作成します。確実に遺言書を残したいときや相続財産が比較的大きい時に利用されます。
- 秘密証書遺言...
-
遺言書を公証役場で手続きをしますが、遺言内容は公証人に知られずに出来るので絶対に亡くなるまでは秘密を守りたいという時に利用されます。
- 公証人...
- 実務経験を有する法律実務家(裁判官・検察官・弁護士等)の中から法務大臣が任命する公務員。
- 公証役場...
- 公証人が執務するところです。全国で約300カ所あります。公証人合同役場とか公証センターなどというものもあります。
<3種類の遺言書の作成方法>
|
自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
秘密証書遺言 |
証人 |
不要 |
2人必要 |
2人必要 |
秘密性 |
秘密にできる |
証人に内容を知られてしまう |
秘密にできる |
保管方法 |
本人 |
原本は公証人 謄本は本人 |
本人 |
費用 |
0円 |
公証人へ1.6万円程度から数10万円 (財産価額による)+証人への支払い |
公証人へ1.1万円程度 +証人への支払い |
家庭裁判所の検認 |
必要 |
不要 |
必要 |
備考 |
自分一人で作成できて費用もかからない |
確実な遺言書が作成できる |
ほとんど使われていない |
【4】公正証書遺言の長所と短所
- 【長所】
- 1.法律のプロ中のプロである公証人が作成するので様式不備で無効になる恐れがない。
- 2.公証人と証人2人が遺言書作成に立ち会うため、証拠能力が高い。後で相続人が遺言書の有効・無効をめぐって争いになる可能性が低い。
- 3.遺言書の原本が公証役場に保管されるので、紛失、変造、隠蔽の恐れがない。
- 4.自筆遺言などでは家庭裁判所の「検認」が必要となるが公正証書では「検認」が不要となり、相続発生後すぐに遺言の内容を実行できる。
<公正証書遺言にした方がよいケース>
- (1) 確実に遺言を実行したい場合
- (2) 不動産などの高額な財産がある場合
- (3) 病気・けがなどで自筆証書遺言が作成できない場合
- (4) 第3者に財産を遺贈したい場合
- (5) 婚外子の認知や排除など、相続人の利益を損ねるような遺言の場合
【短所】
- 1.遺言の内容が公証人と証人には知られてしまう。(当然のことですが、証人には守秘義務があります。)
- 2.公証役場に2回(依頼時と遺言書作成時)行く必要がある。また公証人への手数料がかかる。
【5】最後に
-
遺産が少額だと、相続税の納税は心配ありません。その代わり「遺産分割」の額や分割方法で、遺族同士がもめたり、いがみ合ったりしがちです。相続が起きた時の一番悲しい出来事は残された相続人である妻や子供たちで争いが起こる事ではないでしょうか。上記の裁判事例がそれを実証しています。遺産の額が少額であったとしても残された家族等のため遺言書を作成していただきたいと思います。
友弘正人 (ともひろまさと)
(公認会計士・税理士・CFP・行政書士)
昭和24年生まれ。
中央大学商学部卒業。昭和50年公認会計士第2次試験合格開業。監査法人大成会計、アクタス監査法人社代表社員を経て、平成12年株式会社トータル財務プラン代表取締役。株式会社アート相続プラン代表取締役を兼任している。
NHK文化センター、商工会議所、日本経済新聞社、中小企業センター、三和総研、日本総研、その他講義・講演マネジメントサービス活動を展開。
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