【1】はじめに
前回(3/12)の記事でご紹介した通り、相続税の基礎控除が下げられる税制改正大綱が発表されています。これにより相続税の申告が必要となる方が増加すると見込まれますが、相続税の申告やその後の税務調査を経験された方はあまりいないのではないでしょうか。そこで今回は相続税の税務調査で指摘されるポイントをご紹介します。
【2】相続税の税務調査の状況
国税庁より平成23事務年度における相続税の税務調査の実施状況が公表されています。
表(1) 調査事績
実地調査件数 | うち申告漏れ等の非違件数 | 非違割合 |
13,787件 | 11,159件 | 80.9% |
表(2) 申告漏れ等があった財産の内訳
財産の種類 | 土地 | 家屋 | 有価証券 | 預貯金等 | その他 |
財産額 | 630億円 | 76億円 | 631億円 | 1426億円 | 1179億円 |
構成比 | 16.0% | 1.9% | 16.0% | 36.2% | 29.9% |
上記表(1)で分かるように、税務調査が入れば8割以上の案件が何らかの申告漏れが指摘されています。また、表(2)ではその申告漏れのうち預貯金等と有価証券の金融資産が52.2%と半数以上を占めており、税務調査時のポイントとなっていることが分かります。
【3】注意すべきは名義預金と名義株
【2】の表(2)で預貯金等の申告漏れの割合が高いのは、いわゆる「名義預金」が財産から漏れていたものが多いと推測されます。「名義預金」とは預貯金の通帳等の名義が配偶者・子・孫などであるものの、実質的には被相続人の預貯金であるものを言います。つまり、家族の名義を借りているだけの預貯金です。名義を借りているだけで実質的には被相続人に帰属する預貯金であるものは相続財産に含めて申告する必要があります。
例えばこんなものが…
・ 子のために子名義の口座で被相続人の収入から毎月積み立てをしていた
・ 被相続人の財産から除くために配偶者名義で定期預金をした
・ 贈与したつもりで孫名義の口座を開設して預入れたが、孫は全く知らないままだった
また、「名義預金」と同様に株式についても「名義株」というものがあります。名義預金と同じで、株式所有者の名義が配偶者等の家族であるものの、実質は被相続人に帰属する株式を言います。名義株は同族会社を経営されている方の株式を後継者等に移転しているものが税務調査のポイントとなっているため注意が必要です。
【4】どこまでが名義預金・名義株になる?
名義預金・名義株の帰属の判定については、画一的な基準がないため、税務調査で納税者と税務当局との意見の相違が生じることが多くあります。被相続人に帰属するかどうかは、事実認定の問題であり、個別の事例に応じて判断されます。過去の判例等から見ると次のようなチェックポイントに当てはまれば名義預金・名義株と指摘される可能性があります。
(1)名義預金の判定要素
(イ)その預金は誰の原資で蓄積されたものか?
(ロ)その預金の通帳等を誰が管理していたか?
(ハ)その預金の実質的に支配していたのは誰か?
(2)名義株の判定要素
(イ)株式の取得資金は誰が負担しているか?
(ロ)贈与で取得した場合は贈与の事実が確認できるか?
(ハ)配当金は名義人が受領しているか?
(ニ)株式を誰が支配管理していたか?
【5】「生前贈与」と「名義預金・名義株」では大違い
そもそも贈与とは簡単にいえば、贈与者が「財産をあげましょうという意思表示」と、受贈者が「財産をもらいましょうという意思表示」をすることによって贈与契約が成立することとなります。したがって名義預金・名義株に該当させないために、次のような手続きを踏んで生前贈与を適正に成立させておくことが大事です。
なお、贈与税には税務上の時効があり、国税通則法では法定納期限から6年間(ただし、偽りその他不正行為によって免れた場合等については7年間)と定められています。
一方、名義預金・名義株は名義が子や孫などであっても贈与が成立していないため、何年経過していたとしても贈与税の時効は成立することはありません。
相続税調査において税務当局は、被相続人から家族等への預金移動があれば名義預金にしようとします。なぜなら贈与には時効があり、名義預金には時効がないため6年(または7年)以上前の預金移動についても相続税で課税できるからです。税務調査で指摘されれば本税に加えて加算税や延滞税が追徴され、余分に大きな負担を強いられます。そうならないように、資産税に精通している税理士は名義預金とならないためのアドバイスをしています。
【6】最後に
名義預金・名義株は個別の状況に応じて判断されますが、何も証拠がなければ納税者にとって不利な認定をされるかも知れません。税務調査で無用な指摘を受けないためにも、生前に財産を移転する際はきちんと文書で証拠を残しておくことが必要です。詳しくは税理士等の専門家にご相談ください。