今までの日本は、まだまだ使える建物を壊して建て替える「スクラップ・アンド・ビルド」を長い間繰り返してきた。今後、そのような再生が必要なのか、今一度、古い建築物を再び生き返らせる手法(リニューアルやリノベーション、リモデリングといった新しい形)に取り組むことが今後の大きな課題でもある。この点を踏まえて最近の不動産業界ではレトロなビルやマンションの外観を残し、大切な資産をそのまま保持しながら、インフィル部分だけを改装して、新しい価値(収益)を生み出す手法が活発化してきている。しかし、歴史的価値のある貴重な建造物を現代に伝えるという観点から古い構造物を活かした開発を進めるには、新築と比べて法律上の問題やコストがかかりなかなか事業化できないのが現状だ。こうしたリスクを回避し、建物取得や改修費用、入居者斡旋など独自のマーケティング戦略を展開し、新しい賃貸経営で注目されているのがオー・エム・コーポレーション(大阪市中央区、代表取締役小川光宏氏)。大阪市内を中心に「REシリーズ」で本格的な再生ビジネスに取り組んでいる同社の春原尚幸取締役営業本部長に再生事業について話を聞いた。
――現在の住宅市況はいかがですか
「国土交通省によると大阪では昭和四十三年以降、住宅供給戸数が世帯数を上回っている。平成十年になると大阪府下で五十万戸以上も住宅が余っている状況で今後も増加すると予想される。しかも最近では地価下落を背景に大阪市内を中心に高層マンションが大量供給されて、住宅戸数自体、過熱気味。新築の分譲マンションの中には表面上完売していても実際は分譲後すぐにデベロッパーから『まとめて賃貸にまわしてほしい』という依頼もあるのが現状だ。マンションデベロッパーは常に土地を仕入れ、開発を続けないと収益が出せない企業体質のため、土地の仕入れが困難な状況でも開発をしなければならない」
「最近、市内における土地の入札は路線価をはるかに上回る価格で落札されるなど土地取得がいっそう厳しい。あるデベロッパーによれば土地を求めて郊外の土地を仕入れているのが実情だ」
――賃貸市場はいかがですか
「一昔前、不動産は買えば資産として価値があったが現在、資産を持つだけでは価値が生まれない。どうすれば利益を生み出すかを考えることが必要だ。マンションデベロッパーが賃貸市場において事業化するにあたり、土地と建物については計画性があるが賃料設定に関しては問題点が多く、商品化すると失敗する。つまり、市場を十分理解していない点があげられる。事業計画段階で過去の取引事例を基に賃料価格を設定するため、完成しても収益が出ないケースが原因だ」
「当社は自社運営するエンドユーザー向けの各店舗から顧客情報を収集して独自のマーケティングデータを構築し、賃料を設定、商品化する。入居者の"生の声"は非常に細かい要望が多く、管理企業としては非常に参考になるため、出来る限り入居者の声を聞き入れることに注力する。その結果、その地域における適正な商品づくりができる」
――御社の賃貸における具体的な手法について伺います
「当社が再生事業として商品化するための重要なポイントは?土地の取得原価?改修コスト?賃料設定―という三大要素が挙げられる。当社ははじめ親会社のオー・エム・ハウジングが開発した物件管理の会社だったが八月に親会社を吸収合併する形で一本化し、オーエムコーポレーションで市内を中心に管理・仲介を行っている。当社のリノベーション物件ブランド名『REシリーズ』は、収益性の見込めない既存建物の一室やワンフロアなどの改修コストを抑えてリノベーションを加える、住宅から住宅への改修により新しい収益を生み出す手法で事業展開している」
「既存建物を壊さず、再生することで本来、建物がもつポテンシャルを高め、街の再生にもつなげていきたい。自社商品を大量供給するブランド力のある大手企業と対抗するためには、デザイナーズマンションをはじめ、既存建物をリメイクする手法を積極的に取り入れることが必要だ。つまり、マンションの一室を今までとは完全に違うアイテムを採用し、今までとまったく違う部屋にリメイクすることで従来の賃料に上乗せするやり方だ」
「賃料収益が上がるとなればオーナーも改修に対して前向きになる。ゆえに、収益物件として生まれ変わればオーナーと今まで以上の信頼関係が構築できる。さらに、収益が上がれば投資用物件として生まれ変わり、数年後、ファンドなどに売却することで新しい収益を生み出すことも可能になる」
――賃貸市場として今後の方向性を伺います
「都心部での分譲マンションの大量供給により、一部では売れ残りが生じると販売価格を下げて売るケースが目立つ。こうした販売価格の下落で賃貸入居者が分譲マンションを購入することで賃貸市場から分譲市場へと流入する事態が起こっている。デベロッパーが分譲マンションを供給することは、いわば、"分譲供給=賃貸市場への参入"という認識だ」
「対抗するには賃料を下げるより入居者が求める人的サービスの導入、例えばコンシェルジェ(ホテルなどの接客係)的な考え方を取り入れることが必要だ。賃料を高く設定してもニーズはあり、例えば、東京ではサービスアパートメントオフィスとして商品化され取引されている実例がある。関西では『入居者に安い賃料で提供することがサービス』という考え方があり、付加価値をつけて、それに見合う賃料設定をする考え方が浸透するには時間がかかりそうだ」
――今後の事業展開は?
「不動産全般における総合プロデュース企業として収益物件の開発するディベロップメント事業と企画段階から参入できるアドバイザリーPM(プロパティマネジメント)業務の確立だ。数年後には株式公開を視野に入れており、公開することで従業員の士気やブランドイメージを上げ、今まで以上に資金調達がしやすくなる環境づくりを含めて、長期的に安定した企業の構築を目指す」
「さらに、自社による不動産再生型ファンドの組成に取り組み、関西圏をはじめ関東圏にもPM業務をベースに事業を拡大していきたい。今期の売上目標は二十億円、来期は五十億円を見込んでいる」
記事提供:住宅流通新聞
株式会社オー・エム・コーポレーション
http://www.omc-osaka.co.jp/