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不動産・コンサルタント倉橋隆行先生の不動産投資ノウハウ

不動産コンサルタント始末記

バブルが残したトラブル処理(その9)

 廣瀬が契約解除付の訴状を提出して、概ね2週間程度で第1回口頭弁論期日が入った。
 吉田は弁論期日の前日から横浜に出てきてスタンバイし、倉橋は、当日、吉田を法廷に慣れさせるために1時間ほど前に傍聴席に座らせた。

 

 「裁判所って、本当にテレビで見たとおりなんですね」
 吉田は横浜地方裁判所の法廷に入って、倉橋に言った。
 「僕、大丈夫ですかね」
 「大丈夫ですよ。裁判官に聞かれたら、訴状のとおりですって言えばそれで終わりです」

 訴訟手続きの場合、概ね文書主義で審理される為、第1回口頭弁論の際、相手方から「答弁書」等が出れば、原告側は「準備書面」で対抗することになるが、本件のように賃料滞納による建物明渡し訴訟のような場合、契約違反は明らかな為、相手方が争ってくる可能性は少なく、意外に簡単に債務名義が取れることが多い。
 「ただ、前田さんは来ない可能性が高いですから、18ヵ月以上滞納されていることを強調して、何とか、今日、結審してくださいって言ってください。次回期日が入ると1ヵ月は後になりますから」

 


 法廷では、別件の損害賠償請求事件を審理しており、原告が裁判官に食い下がった所、裁判官が原告を大きな声で窘めていた。
 「あなたね、何べん言えば分かるの。駄目なものは駄目なの!」
 かなり気の短い裁判官らしく、更に食い下がろうとする原告に「もういいや。分からなければしょうがないね。結審します。判決は2週間後、以上」

 裁判官は、さっさと書類をとじると、不満そうな原告を退け、次の審理に進んだ。

 

 「僕も、あんなふうに叱られるんでしょうか?」
 吉田は、この光景を見てかなり緊張しながら、倉橋に言った。
 「いや、あれは原告が悪いんですよ。請求する相手方を間違えているから、裁判にならないんです」
 裁判の内容を察知し、簡単に裁判官が窘めている理由を倉橋は吉田に説明した。
 「ただ、この裁判官は気が短そうだから、今日、結審してくれるかもしれませんよ。かえって有利です」

 

 裁判官にもいろいろな性格な人がおり、時間をかけて和解を勧める裁判官もいれば、結構早い段階で結審し、単刀直入な判決を下してくれる裁判官もいる。本件のように賃料滞納による建物明渡し請求訴訟のような場合、相手方が出頭してこない時は、再度、呼び出しをかけて1ヵ月くらい後にもう一度口頭弁論を行うことが多い。しかしこれも裁判官の判断に基づく為、単刀直入に判決を下してくれるような裁判官の場合、1回の口頭弁論で終結してくれることもあるのである。

 

 「吉田さん、落ち着いて訴状のとおりです、って言ってください」
 廣瀬が不安そうな吉田に耳打ちした。
 「その後、18ヵ月以上滞納している事実を明確に裁判官に言って、チャンスがあれば、吉田さんも困っていることを伝えてください」
 そして裁判官のほうを上目遣いで見、続けて「あの裁判官、気短のようですから、判決くださいって言ってみてください」と告げると、ニタッと笑った。

 


 「建物明渡し請求事件、原告、吉田浩、被告、前田はじめ」
 書記官が法廷への呼び出しを行った。
 「なお、被告は欠席です」
 「原告にお尋ねしますが、この賃料滞納の事実に間違いはありませんか」
 裁判官は、吉田に丁寧に尋ねた。
 「はい、間違いありません」
 吉田は気弱に答え、「訴状のとおりです」と付け加えた。
 「あれ?契約書がないけど、保管してないの?」
 裁判官が意地悪そうに吉田に聞いた。
 「ええ、それは、権藤という人がいまして、その人から勧められてこのマンションを買いまして」
 吉田が裁判官に今までの経緯を話し出した。
 「最初は、15万円の約束だったのですが、いや、確かに15万円をもらっていたのですが・・・」
 「あのね、聞かれたことだけ答えてください」
 裁判官は苛立ちながらいった。
 「契約書はないのね」
 「はい、ありません」
 「家賃は15万円って言ってたけど、訴状には8万円ってなってますよね」
 裁判官は、さらに意地悪そうに吉田に尋ねた。
 「はい、今は8万円です」
 吉田は、緊張の余り真っ赤な顔でおどおどしながら答えた。
 「今は、ってあなたは言うけど、訴状には当初より8万円と記載されているじゃないですか!」
 裁判官が少し大きな声で吉田に言った。
 「訴状の記載内容に、偽りがあるのですか!?」
 倉橋も廣瀬も、傍聴人席で固唾を飲んだ。
 吉田は俯いたまま、しばらく絶句してしまった。

2005.08/02

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倉橋隆行 (くらはしたかゆき)
1958年9月25日生
96年に(社)全国賃貸住宅経営協会横浜南部支部支部長に就任し、翌年、同協会の神奈川連合会の創設に伴い副会長に就任。98年、不動産業界に関するシンクタンクである不動産体系研究所創設に伴い、取締役所長に就任。99年、総合的な月貸し賃貸の運用会社である(株)月極倶楽部を創立、代表取締役に就任。同時に(株)三春情報センターを退職。そして、資産運用管理会社である(株)CFネッツを創立し、代表取締役に就任。2001年、2002年JREM国際CPM協会副会長就任。2003年4月、IREM(全米不動産管理協会)より、CPM(公認不動産管理士サーティファイド・プロパティマネージャー)の称号を日本で初めての公式試験受験による取得者となる。現在、グループ企業4社の代表取締役と取締役、その他公益法人の役職をこなし、超多忙な仕事をこなしている。
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