弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ
新しい住生活基本計画について
出典:国土交通省ホームページ
http://www.mlit.go.jp/index.html
第1 新しい住生活基本計画の作成
1 新たな住生活基本計画の閣議決定
平成28年3月18日、住生活基本法に基づく新たな住生活基本計画(計画期間:平成28年度~平成37年度)が閣議決定されました。
住生活基本計画は、住生活基本法に基づき、国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画として策定されたものであり、前計画(平成23年3月15日閣議決定)において、「今後の社会経済情勢の変化及び施策の効果に対する評価を踏まえて、おおむね5年後に見直し、所要の変更を行う」こととされていたことから、今回新たに作成されたものです。
今回の基本計画は、持ち家や賃貸住宅等の国の基本的な施策を決定するものであり、今回の計画は今後10年間の住宅政策等に関する国の施策を決定する基本的な指針となるものです。
今回の計画では、現在の人口動向や社会的状況を踏まえて極めて広範な範囲で住宅施策に関する目標設定がなされており、今後の賃貸住宅経営のあり方にとっても、非常に参考になると思いますのでご紹介致します。
2 住生活基本計画のポイント
今回の住生活基本計画においては、少子高齢化・人口減少等の課題を正面から受け止めた新たな住宅政策の方向性を提示しています。主なポイントは次のとおりです。
- (1) ポイント1
- 1. 若年・子育て世帯や高齢者が安心して暮らすことができる住生活の実現を目指す。
- 2. 「若年・子育て世帯」と「高齢者」の住生活に関する目標を初めて設定
- 3. ひとり親・多子世帯等の子育て世帯や高齢者等を対象に民間賃貸住宅を活用した住宅セーフティネット機能の強化策を検討
- (2) ポイント2
- 1. 既存住宅の流通と空き家の利活用を促進し、住宅ストック活用型市場への転換を加速
- 2. マンションの建替え等の件数として、昭和50年からの累計を約500件とする成果指標を設定 (過去の4倍のペースとなる数値)
- 3. 「空き家」に関する目標を初めて設定。「その他空き家」数を400万戸程度に抑制(新たな施策を講じない場合と比べて約100万戸抑制する数値)
- (3)ポイント3
- 1. 住生活を支え、強い経済を実現する担い手としての住生活産業を活性化
- 2. 「産業」に関する目標を初めて設定。住宅ストックビジネスを活性化し、既存住宅流通・リフォームの市場規模を倍増し、20兆円市場にすることを目指す
第2 住生活基本計画の内容
1 住生活基本計画の現状と今後の課題と基本的方針
住生活をめぐる現状と今後10年の課題、それらに対応するための施策の基本的な方針は次のとおりです。
- (1) 住生活をめぐる現状と今後10年の課題
- 1.少子高齢化 ・ 人口減少の急速な進展。大都市圏における後期高齢者の急増
- [1]人口減少と少子高齢化
-
○ 我が国の総人口は平成22(2010)年の1億2,806万人をピークに減少局面に。高齢者の割合は、平成25(2013)年には25%を超え、世界に例のない高齢社会がすでに到来しています。
- ○ 少子化による若年人口、生産年齢人口の減少と、団塊の世代の高齢化に伴う高齢人口の増加が進み、平成37(2025)年には、30%を超える見込みです。
- [2]地方圏の人口減少と継続・増大する大都市圏への人口流出
-
○ 地方圏では高齢化がさらに進み、人口と世帯数が大都市圏よりも早く減少局面に入っている。他方、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)における平成26(2014)年の転入超過数は約11万人、東京都(約7万3千人)が最多で3年連続で増加しており、地方圏から大都市圏への人口流出が継続・増大しています。
-
○ 長期的にみると、2050年に人口が増加する地点の割合は全国の約2%で、主に大都市圏に分布する一方で、人口が半分以下になる地点が現在の居住地域の6割以上となる見込みです。
- [3]大都市圏における後期高齢者の急増
-
○ 平成37(2025)年には、団塊の世代が後期高齢者となり、全国の後期高齢者数は平成22(2010)年の約1.5倍、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、茨城県)では約1.8倍に増加。首都圏をはじめとする大都市圏では、後期高齢者の大幅な増加に直面する見込みであり、医療・介護・福祉需要の増加への対応が喫緊の課題となっています。
- [4]生活保護受給世帯の状況
- ○ 生活保護受給世帯も、平成4(1992)年の約59万世帯から平成27(2015)年には約162万世帯に増加しています。
- ○ 生活保護受給世帯の増加は、高齢化の進展により就労による経済的自立が容易でない高齢者世帯が増加していること等によると考えられます。
- ○ 特に、高齢者世帯の増加に伴い、賃貸住宅居住の高齢者世帯(年金受給世帯等)が増加しており、今後も増加する見込みです。
- ○ 高齢者(夫婦・単身)世帯数:平成27(2015)年の1,222万世帯から平成37(2025)年に1,346万世帯に増加する見込みです。
- ○ 賃貸住宅に居住する高齢者(夫婦・単身)世帯数:平成15(2003)年:約109万世帯→平成25年(2013年):約162万世帯
- 2.世帯数の減少により空き家がさらに増加
-
○ 住宅の戸数に大きな影響を与える世帯数も減少局面を迎え、平成31(2019)年の5,307万世帯を頂点として、平成37(2025)年には5,244万世帯になる見込みです。
-
○ 民間シンクタンクの予測には、平成25(2013)年に約820万戸あった空き家の総数が、平成35(2023)年には約1,400万戸に、特に問題となる賃貸・売却用以外のいわゆる「その他空き家」は、平成25(2013)年の約320万戸から平成35(2023)年に約500万戸となる見込みとするものもあります。
- 3.地域のコミュニティが希薄化しているなど居住環境の質が低下
-
○ 住宅地における人口減少、少子高齢化、空き家の増加により、地域のコミュニティが希薄化すると、高齢者や子どもを地域全体で見守る機能の低下や災害に対する脆弱性が増大するおそれ。公共サービスの維持も困難になり、居住者の日常生活の利便性も低下します。
- ○ 近隣住民や地域との交流・つながりについての意識調査によると、交流・つながりを持ちたいと考える理由として、
- (1)火事や自然災害など緊急時にお互いに助け合える(全ての世代で6割以上)
- (2)高齢者の見守りや介護などに有益だから(40代以上で約5割)
- (3)子育てや子どもの成長などに有益だから(30代で約6割) 等を挙げる割合が高いとされています。
- ○ 一般路線バスの路線廃止キロ:平成21(2009)年から平成26(2014)年までに約8,053km
- ○ 鉄軌道の廃線:平成12(2000)年度から平成26(2014)年度までに37路線、約754km
- ○ 公共交通空白地域(バス500m圏外、鉄道1km圏外)の人口:約735万人(平成23(2011)年)
- 4.少子高齢化と人口減少が住宅政策上の諸問題の根本的な要因
-
○ i)医療・福祉・介護需要、高齢の生活保護受給世帯の増加等をもたらすおそれがある高齢化問題、ii)空き家問題、iii)地域コミュニティを支える力の低下といった住宅政策上の諸問題は、少子高齢化と人口減少が根本的な要因です。
- ○ 昭和59(1984)年には1.81であった出生率は、平成17(2005)年には1.26 まで大幅に低下し、その後も1.3~1.4 程度で推移しています。
- ○ 少子高齢化は、社会保障費用負担増、国内経済の縮小など若年世代の将来に対する不安・悲観へとつながり、更なる少子化につながるおそれがあります。
- ○ 長期的には、出生率の向上が実現されない限り、更なる人口減少と極めて高い高齢化率が継続し、住宅政策上も更に困難な状況になることが避けられません。
- 5.リフォーム・既存住宅流通等の住宅ストック活用型市場への転換の遅れ
-
○ 平成25(2013)年には、住宅ストック数は約6,063万戸となり、戸数的には充足。空き家も約820万戸となり、空き家問題が深刻化する中で、既存住宅活用型市場への転換が求められてきました。
-
○ 既存住宅活用型市場の柱である、住宅リフォーム市場規模(平成20(2008)年の約6.06兆円から、平成25(2013)年の約7.49兆円)、既存住宅取引数(平成20(2008)年の約16.7万戸から平成25(2013)年の約16.9万戸)は、ともに伸び悩んでおり、新築住宅中心の市場から既存住宅活用型市場への転換が遅れています。
- 6.マンションの老朽化・空き家の増加により、防災・治安・衛生面での課題が顕在化するおそれ
- ○ 平成26(2014)年のマンションのストック数は約613万戸となり、総住宅ストックの1割以上を占めます。
- ○ 旧耐震基準時代に建設されたマンションのストック数は、約106万戸存在。建設時期が古いほど居住者の高齢化が進展しています。
-
○ 多数の区分所有者の合意形成というマンション特有の難しさに加え、管理組合の役員のなり手不足(居住者の高齢化、賃貸化による非居住所有者の増加、空き家の増加等)など、適正な管理が困難になっているものもあります。
- ○ 具体的には、管理不全による共用部分の機能停止や設備の劣化等の状況に陥るとともに、防災・治安・衛生面での課題が顕在化するおそれがあります。
- (2) 施策の基本的な方針
- 1.3つの視点
-
○ 本計画では、住宅政策の方向性を国民に分かりやすく示すことを基本的な方針とする。そのため、(1)で示した課題に対応するための政策を、多様な視点に立って示し、それらの政策を総合的に実施します。
- [1] 「居住者からの視点」
- [2] 「住宅ストックからの視点」
- [3] 「産業・地域からの視点」
という3つの視点から、以下に掲げる8つの目標を立てます。
- 2.8つの目標
- [1]「居住者からの視点」
目標1:結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現
目標2:高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
目標3:住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
- [2]「住宅ストックからの視点」
目標4:住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
目標5:建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新
目標6:急増する空き家の活用・除却の推進
- [3]「産業・地域からの視点」
目標7:強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長
目標8:住宅地の魅力の維持・向上
2 目標と基本的な施策
- (1) 居住者からの視点
目標1:結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現
- [1] 結婚・出産を希望する若年世帯や子育て世帯が望む住宅を選択・確保できる環境を整備
- [2] 子どもを産み育てたいという思いを実現できる環境を整備し、希望出生率1.8の実現につなげる
1.目標1の基本的な施策
- i 結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が、必要とする質や広さの住宅(民間賃貸、公的賃貸、持家)に、収入等の世帯の状況に応じて居住できるよう支援を実施する。
- [1] 民間賃貸住宅を子育て世帯向けにリフォームすることを促進すること等により、民間賃貸住宅を活用
- [2] 子育て世帯等を対象とした公営住宅への優先入居、UR賃貸住宅等の家賃低廉化等により、公的賃貸住宅への入居を支援
- [3] 子育て世帯等が必要とする良質で魅力的な既存住宅の流通を促進すること等により、持家の取得を支援
- ii 世代間で助け合いながら子どもを育てることができる三世代同居・近居の促進
- iii 住まいの近くへの子育て支援施設の立地誘導等により、地域ぐるみで子どもを育む環境の整備を推進
2.成果指標
○ 子育て世帯(18歳未満が含まれる世帯)における誘導居住面積水準達成率
【全 国】42%(平成25)→50%(平成37)
【大都市圏】37%(平成25)→50%(平成37)
目標2:高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
- [1] 高齢者が安全に安心して生涯を送ることができるための住宅の改善・供給
- [2] 高齢者が望む地域で住宅を確保し、日常生活圏において、介護・医療サービスや生活支援サービスが利用できる居住環境を実現
1.目標2の基本的な施策
-
i 住宅のバリアフリー化やヒートショック対策を推進するとともに、高齢者の身体機能や認知機能、介護・福祉サービス等の状況を考慮した部屋の配置や設備等高齢者向けの住まいや多様な住宅関連サービスのあり方を示した「新たな高齢者向け住宅のガイドライン」を検討・創設
- ii まちづくりと調和し、高齢者の需要に応じたサービス付き高齢者向け住宅等の供給促進や「生涯活躍のまち」の形成
- iii 公的賃貸住宅団地の建替え等の機会をとらえた高齢者世帯・子育て世帯等の支援に資する施設等の地域の拠点の形成
- iv 公的保証による民間金融機関のバックアップなどによりリバースモーゲージの普及を図り、高齢者の住み替え等の住生活関連資金の確保
- v 高齢者の住宅資産の活用や住み替えに関する相談体制の充実
2.成果指標
- ○ 高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合
2.1%(平成26)→4%(平成37)
- ○ 高齢者生活支援施設を併設するサービス付き高齢者向け住宅の割合
77%(平成26)→90%(平成37)
- ○ 都市再生機構団地(大都市圏のおおむね1,000戸以上の団地約200団地が対象)の地域の医療福祉拠点化
団地(平成27)→150団地程度(平成37)
- ○ 建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における、高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯の支援に資する施設の併設率
平成28~平成37の期間内に建替え等が行われる団地のおおむね9割
- ○ 高齢者の居住する住宅の一定のバリアフリー化率※
41%(平成25)→75%(平成37)
※一定のバリアフリー化率:2箇所以上の手すり設置又は屋内の段差解消
目標3:住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
- [1]
住宅を市場において自力で確保することが難しい低額所得者、高齢者、障害者、ひとり親・多子世帯等の子育て世帯、生活保護受給者、外国人、ホームレス等(住宅確保要配慮者)が、安心して暮らせる住宅を確保できる環境を実現
1.目標3の基本的な施策
- i 住宅確保要配慮者の増加に対応するため、空き家の活用を促進するとともに、民間賃貸住宅を活用した新たな仕組みの構築も含めた、住宅セーフティネット機能を強化
- ii
民間賃貸住宅への住宅確保要配慮者の円滑な入居を促進するため、地方公共団体、賃貸住宅管理業者、家主、居住支援を行う団体等から構成される居住支援協議会の設置・活動の支援と、生活困窮者自立支援制度等福祉施策との連携
- iii
公営住宅、UR賃貸住宅等の公的賃貸住宅を適切に供給。また、公営住宅の整備・管理について、地域の実情を踏まえつつ、PPP/PFIも含め、民間事業者の様々なノウハウや技術の活用を促進
- iv 公的賃貸住宅団地の建替え等の適切な実施と、その機会をとらえた高齢者世帯・子育て世帯等の支援に資する施設等の地域の拠点の形成による居住環境の再生の推進
2.成果指標
- ○ 最低居住面積水準未満率
4.2%(平成25)→早期に解消
- ○ 都市再生機構団地(大都市圏のおおむね1,000戸以上の団地約200団地が対象)の地域の医療福祉拠点化(再掲)
団地(平成27)→150団地程度(平成37)
- ○ 建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における、高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯の支援に資する施設の併設率(再掲)
平成28~平成37の期間内に建替え等が行われる団地のおおむね9割
- (2) 住宅ストックからの視点
目標4:住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
- [1]
「住宅購入でゴール」のいわゆる「住宅すごろく」を超えて、購入した住宅の維持管理やリフォームの適切な実施により、住宅の価値が低下せず、良質で魅力的な既存住宅として市場で評価され、流通することにより、資産として次の世代に承継されていく新たな流れ(新たな住宅循環システム)を創出
- [2]
既存住宅を良質で魅力的なものにするためのリフォーム投資の拡大と「資産として価値のある住宅」を活用した住み替え需要の喚起により、多様な居住ニーズに対応するとともに人口減少時代の住宅市場の新たな牽引力を創出
1.目標4の基本的な施策
- i 既存住宅が資産となる「新たな住宅循環システム」の構築。そのための施策を総合的に実施
- [1] 建物状況調査(インスペクション)、住宅瑕疵保険等を活用した品質確保
- [2] 建物状況調査(インスペクション)における人材育成や非破壊検査技術の活用等による検査の質の確保・向上
- [3] 住宅性能表示、住宅履歴情報等を活用した消費者への情報提供の充実
- [4] 内装・外装のリフォームやデザインなど、消費者が住みたい・買いたいと思う既存住宅の魅力の向上
- [5] 既存住宅の価値向上を反映した評価方法の普及・定着
- ii 耐震、断熱・省エネルギー、耐久性能等に優れた長期優良住宅等の資産として承継できる良質で安全な新築住宅の供給
- iii 資産としての住宅を担保とした資金調達を行える住宅金融市場の整備・育成
2.成果指標
- ○ 既存住宅流通の市場規模
4兆円(平成25)→8兆円(平成37)
- ○ 既存住宅流通量に占める既存住宅売買瑕疵保険に加入した住宅の割合
5%(平成26)→20%(平成37)
- ○ 新築住宅における認定長期優良住宅の割合
11.3%(平成26)→20%(平成37)
目標5:建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新
- [1] 約900万戸ある耐震性を充たさない住宅の建替え、省エネ性を充たさない住宅やバリアフリー化されていない住宅等のリフォームなどにより、安全で質の高い住宅ストックに更新
- [2] 多数の区分所有者の合意形成という特有の難しさを抱える老朽化マンションの建替え・改修を促進し、耐震性等の安全性や質の向上を図る
1.目標5の基本的な施策
- i 質の高い住宅ストックを将来世代へ承継するため、耐震性を充たさない住宅の建替え等による更新
- ii 耐震化リフォームによる耐震性の向上、長期優良住宅化リフォームによる耐久性等の向上、省エネリフォームによる省エネ性の向上と適切な維持管理の促進
- iii ヒートショック防止等の健康増進・魅力あるデザイン等の投資意欲が刺激され、あるいは効果が実感できるようなリフォームの促進
- iv 密集市街地における安全を確保するための住宅の建替えやリフォームの促進策を検討
- v 民間賃貸住宅の計画的な維持管理を促進するため、必要となる修繕資金が確保されるための手段を幅広く検討
- vi リフォームに関する消費者の相談体制や消費者が安心してリフォーム事業者を選択するためのリフォーム事業者団体登録制度の充実・普及
- vii マンションに関しては、総合的な施策を講じることにより、適切な維持管理や建替え・改修を促進
- [1] 敷地売却制度等を活用したマンションの円滑な建替え・改修や再開発事業を活用した住宅団地の再生を促進
- [2] 空き家が多いマンションにも対応できる合意形成や団地型マンションの円滑な建替えを促進するための新たな仕組みを構築
- [3] 管理組合の担い手不足への対応、管理費等の確実な徴収や長期修繕計画及び修繕積立金の設定により適切な維持管理を推進
2.成果指標
- ○ 耐震基準(昭和56年基準)が求める耐震性を有しない住宅ストックの比率
18%(平成25)→おおむね解消(平成37)
- ○ リフォームの市場規模
7兆円(平成25)→12兆円(平成37)
- ○ 省エネ基準を充たす住宅ストックの割合
6%(平成25)→20%(平成37)
- ○ マンションの建替え等の件数
約250件(平成26)→約500件(平成37)
- ○ 25年以上の長期修繕計画に基づく修繕積立金額を設定している分譲マンション管理組合の割合
46%(平成25)→70%(平成37)
目標6:急増する空き家の活用・除却の推進
- [1] 空き家を賃貸、売却、他用途に活用するとともに、計画的な空き家の解体・撤去を推進し、空き家の増加を抑制
- [2] 地方圏においては特に空き家の増加が著しいため、空き家対策を総合的に推進し、地方創生に貢献
1.基本的な施策
- i 良質な既存住宅が市場に流通し、空き家増加が抑制される新たな住宅循環システムの構築
- ii 空き家を活用した地方移住、二地域居住等の促進
- iii 伝統的な日本家屋としての古民家等の再生や他用途活用を促進
- iv 介護、福祉、子育て支援施設、宿泊施設等の他用途への転換の促進
- v 定期借家制度、DIY型賃貸借等の多様な賃貸借の形態を活用した既存住宅の活用促進
- vi 空き家の利活用や売却・賃貸に関する相談体制や、空き家の所有者等の情報の収集・開示方法の充実
- vii 防災・衛生・景観等の生活環境に悪影響を及ぼす空き家について、空家等対策の推進に関する特別措置法などを活用した計画的な解体・撤去を促進
2.成果指標
- ○ 空家等対策計画を策定した市区町村数の全市区町村数に対する割合
0割(平成26)→おおむね8割(平成37)
- ○ 賃貸・売却用等以外の「その他空き家」数
318万戸(平成25)→400万戸程度におさえる(平成37)
- (3) 産業・地域からの視点
目標7:強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長
- [1] 後継者不足に加え少子化の影響で担い手不足が深刻化する中で、住生活産業の担い手を確保・育成し、地域経済を活性化するとともに、良質で安全な住宅を供給できる環境を実現
- [2] 住生活に関連する新しいビジネスを成長させ、居住者の利便性の向上とともに、経済成長に貢献
1.基本的な施策
- i 地域経済を支える地域材を用いた良質な木造住宅の供給促進やそれを担う設計者や技能者の育成等の生産体制整備
- ii 伝統的な技術を確実に承継し発展させるとともに、CLT(直交集成板)等の部材・工法等の新たな技術開発を推進
- iii 既存住宅の維持管理、リフォーム、空き家管理等のいわゆる住宅ストックビジネス※の活性化を推進するとともに、多角化する住生活産業に対応した担い手を確保し、研修等による育成を強化
※定期メンテナンス、建物状況調査(インスペクション)、住宅ファイル、空き家巡回サービス、DIYビジネス、BIMデータ等
-
iv 生活の利便性の向上と新たな市場創出のため、子育て世帯・高齢者世帯など幅広い世帯のニーズに応える住生活関連の新たなビジネス※市場の創出・拡大を促進するとともに、住生活産業の海外展開を支援するなど、我が国の住生活産業の成長を促進
※家事代行、暮らしのトラブル駆けつけ、防犯・セキュリティ技術、保管クリーニング、粗大ゴミ搬出、家具移動、食事宅配、ICT対応型住宅、遠隔健康管理、IoT住宅、ロボット技術等
2.成果指標
- ○ リフォームの市場規模(再掲)
7兆円(平成25)→12兆円(平成37)
- ○ 既存住宅流通の市場規模(再掲)
4兆円(平成25)→8兆円(平成37)
目標8:住宅地の魅力の維持・向上
- [1] 地域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、個々の住宅だけでなく、居住環境やコミュニティをより豊かなものにすることを目指す
- [2] 国土強靱化の理念を踏まえ、火災や地震、洪水・内水、津波・高潮、土砂災害等の自然災害等に対する防災・減災対策を推進し、居住者の安全性の確保・向上を促進
1.基本的な施策
-
i スマートウェルネスシティやコンパクトシティなどのまちづくりと連携しつつ、福祉拠点の形成や街なか居住を進め、交通・買い物・医療・教育等に関して居住者の利便性や防犯性を向上させるなど、どの世代も安心して暮らすことができる居住環境・住宅地の魅力の維持・向上
- ii 住宅団地の再生促進と、その機会をとらえた高齢者世帯・子育て世帯等の支援に資する施設等の地域の拠点の形成による地域コミュニティと利便性の向上を促進
- iii
NPOや街づくりコーディネーターといった専門家による支援等を通じ、住民によって担われる仕組みを充実させるとともに、建築協定や景観協定等を活用した良好な景観の形成、高齢者や子どもを地域全体で見守ること等ができる豊かなコミュニティの維持・向上を目指す
- iv マンションのコミュニティ活動について、居住者、管理組合、周辺住民、民間事業者、地方公共団体等の多様な主体により、適切な役割分担の下に、積極的に行われるよう推進
- v 密集市街地の改善整備や無電柱化の推進、ハザードマップの積極的な情報提供、タイムラインの整備と訓練等により居住者の災害時の安全性の向上を図る
2.成果指標
- ○ 地震時等に著しく危険な密集市街地※の面積
約4,450ha (平成27速報)→おおむね解消(平成32)
※地震時等に著しく危険な密集市街地:密集市街地のうち、延焼危険性又は避難困難性が高く、地震時等における最低限の安全性が確保されていない、著しく危険な密集市街地
- ○ 都市再生機構団地(大都市圏のおおむね1,000戸以上の団地約200団地が対象)の地域の医療福祉拠点化(再掲)
0団地(平成27)→150団地程度(平成37)
- ○ 建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における、高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯の支援に資する施設の併設率(再掲)
平成28~平成37の期間内に建替え等が行われる団地のおおむね9割
- ○ (参考)景観計画に基づき取組を進める地域の数
(市区町村数) 458団体(平成26)→約700団体(平成32)
- ○ (参考)市街地等の幹線道路の無電柱化率
16%(平成26)→20%(平成32)
- ○ (参考)最大クラスの洪水・内水、津波・高潮に対応したハザードマップを作成・公表し、住民の防災意識向上につながる訓練(机上訓練、情報伝達訓練等)を実施した市区町村の割合
(洪水): -(平成26)→100%(平成32)
(内水): -(平成26)→100%(平成32)
(津波): 0%(平成26)→100%(平成32)
(高潮): -(平成26)→100%(平成32)
- ○ (参考)土砂災害ハザードマップを作成・公表し、地域防災計画に土砂災害の防災訓練に関する記載のある市町村の割合
約33%(平成26)→約100%(平成32)
- ○ (参考)国管理河川におけるタイムラインの策定数
148市区町村(平成26)→730市区町村(平成32)
3 大都市圏における住宅の供給等及び住宅地の供給の促進
- (1) 基本的な考え方
- 1.大都市圏においては、出生率が低い一方で、高齢者の大幅な増加の見込み。
- 2.また、依然として長時間通勤の解消、居住水準の向上、密集市街地の改善等の大都市圏特有の課題が存在。
-
3.このため、国民の居住ニーズの多様化・高度化を考慮しつつ、それぞれの世帯が無理のない負担で良質な住宅を確保できるよう、住宅の供給等及び住宅地の供給を着実に進める必要。その際には、地域ごとの住宅需要を見極めるとともに、地域の実情に応じた都市農地の保全の在り方に留意することが必要。
- 4.具体的には、以下のとおり、良好な居住環境の形成に配慮しながら、地域の属性に応じた施策を推進。
- ア 都心の地域その他既成市街地内
土地の有効・高度利用、既存の公共公益施設の有効活用、防災性の向上、職住近接の実現等の観点から、建替えやリフォーム等を推進するとともに、良質な住宅・宅地ストックの流通や空き家の有効利用を促進。
- イ 郊外型の新市街地開発
既に着手している事業で、自然環境の保全に配慮され、将来にわたって地域の資産となる豊かな居住環境を備えた優良な市街地の形成が見込まれるものに限定。
- (2) 住宅の供給等及び住宅地の供給を重点的に図るべき地域の設定
-
1.(1)を踏まえ、大都市圏に属する都府県は、各地域の様々な課題の解消を図るため、都道府県計画において、大都市圏における圏域の中心部等への通勤・通学者の居住が想定される地域や高齢者の大幅な増加が見込まれる地域の中から、住宅の供給等及び住宅地の供給を重点的に図るべき地域を設定。
- 2.その際には、住宅需要を慎重に見極めるとともに、立地適正化計画を策定する市町村の取組とも連携。
- 3.1.で設定した各地域において、その特性を踏まえた規制・誘導手法の活用、住宅の供給等及び住宅地の供給に関する事業の実施等の各種施策を集中的かつ総合的に実施。
4 施策の総合的かつ計画的な推進
- (1) 住生活に関わる主体・施策分野の連携
- 1.本計画の目標は、市場を通じて実現されることが基本。そのため、住生活産業を担う民間事業者の役割が最も重要。
- 2.公営住宅の整備・管理等の住宅セーフティネットの構築や地域によって多様な住生活をめぐる課題にきめ細かく対応するためには、地方公共団体の役割が不可欠。
- 3.次の世代に承継される住宅ストックの形成や地域コミュニティの維持・向上のためには、居住者や地域住民の役割が重要。
-
4.上記各主体を補完する主体として、都市再生機構については、既存の賃貸住宅ストックの活用を前提として、少子高齢化に対応した子育て世帯や高齢者世帯の住宅の確保やその技術力、住宅・まちづくりのノウハウを活用した住宅地の再生などの役割が期待される。住宅金融支援機構については、新たな住宅循環システムの構築や建替え・リフォームによる安全で質の高い住宅への更新等に対応した住宅ローンの供給を支援する役割が期待される。そのため、両機構が担うべき役割を踏まえつつ、その機能を十分発揮させていく。
- 5.上記各主体に加え、地域住民の団体、NPOなどを含めた住生活に関わる主体が相互に連携及び協力することが重要。
- 6.国においては、関係行政機関による「住生活安定向上施策推進会議」を活用し、本計画に基づく施策を関係行政機関が連携して推進するとともに、施策の実施状況を毎年度とりまとめる。
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7.国と地方公共団体等の各主体が連携することにより、防災分野、福祉分野、まちづくり分野、環境・エネルギー分野等の国民生活に密接に関連する施策分野との連携を推進するとともに、国民に対する住生活の向上についての教育活動・広報活動等を推進する。
- (2) 消費者の相談体制や消費者・事業者への情報提供の充実
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1.住宅の新築・リフォーム、マンションの建替え、住宅に関わるトラブル、空き家の利活用や売却・賃貸等に関する消費者の相談体制の充実や、住宅に関する紛争の処理についてのADR(裁判外紛争処理手続)の利用を促進。
- 2.消費者が相談先や事業者等に関する必要な情報をスムーズに入手できるよう、関係する主体の連携、ITの活用等により情報提供のあり方を充実。
- 3.今後、既存住宅の売買に関する相談体制や情報提供の充実を図り、新たな住宅循環システムの構築・定着を促進。
- 4.民間賃貸住宅におけるトラブルの未然防止等のため、賃貸住宅標準契約書や原状回復ガイドライン等の標準ルールや賃貸住宅管理業者登録制度を普及。
- 5.消費者等に対し、地域材を用いた良質な木造住宅や和の住まい、住宅における健康への配慮等に関する普及啓発を推進。
- (3) 住宅金融市場の整備と税財政上の措置
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1.消費者が、市場を通じて住宅を選択・確保するためには、短期・変動型や長期・固定型といった多様な住宅ローンが安定的に供給されることが重要。長期・固定型ローンについては、住宅金融証券化市場の整備育成が必要。また、住宅を資産として活用するリバースモーゲージの普及も重要。
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2.多様な居住ニーズに対応した良質な住宅が市場に供給されるためには、民間事業者が必要な資金を円滑に調達できることも重要。今後、質の高い住宅ストックへの更新や既存住宅の流通を促進するためには、買取再販事業者等の既存住宅の更新や流通を担う民間事業者の資金調達を円滑にすることが必要。
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3.資産として承継できる良質な住宅ストックの形成など、本計画に基づく施策を推進するためには、それらの重要度・優先順位に応じて、税制、政策金融、財政支援といった政策誘導手段を、それぞれの効果、特徴・役割に応じて組み合わせつつ、必要な措置を講じていくことが必要。
- (4) 全国計画、都道府県計画、市町村における基本的な計画の策定
- 1.本計画において、住生活を巡る国全体の課題認識と施策の方向性を提示。
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2.広域的な観点から施策の方向性を示すことや市町村間の施策の連携を促すことが期待される都道府県は、法に基づき本計画に即した都道府県が定める住生活基本計画(以下「都道府県計画」という)を策定。
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3.住生活をめぐる課題は大都市圏・地方圏で異なるなど地域によって多様。地域の特性に応じたきめ細かな施策を講じることが必要。より地域に密着した行政主体である市町村においても、地域特性を踏まえ、施策の方向性を示す基本的な計画を策定し、まちづくり施策、福祉施策等の住民生活に深く関わる分野と連携して施策を実施することが必要。これまで以上に市町村計画の策定を促進し、都道府県との連携を強化。必要な情報の提供などを通じて支援。
- (5) 政策評価の実施と計画の見直し
- 1.目標の達成度を示す指標を用い、施策の効果について定期的な分析・評価を行う。
- 2.政策評価や社会経済情勢の変化等を踏まえて、おおむね5年後に計画を見直し、所要の変更を行う。
- (6) 政策推進のための参考水準
本計画に基づく施策を推進するための参考として、別紙1~4を定める。
また、公営住宅の供給については、別紙5の公営住宅の供給の目標量の設定の考え方に基づき、都道府県計画において目標量を定め、計画的な実施を図る。
- 別紙1住宅性能水準
- 別紙2居住環境水準
- 別紙3誘導居住面積水準
- 別紙4最低居住面積水準
- 別紙5公営住宅の供給の目標量の設定の考え方
第3 まとめ
以上のとおり、今回発表された新しい住生活基本計画の内容を紹介しましたが、その内容は、今後の少子高齢化と人口減少に伴う、大きな社会構造の変化を見据えての計画で有り、具体的な目標も設定されて推進することが謳われております。賃貸住宅の経営は、今後ますます困難な時代に突入しますが、今回発表された住生活基本計画は、今後の賃貸住宅の経営とも密接な内容を持つものであるため、ご参考にして頂ければと思います。
2016.08/02
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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫
【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修