出典:裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/
【1】反社条項と賃貸借契約解除との関係
建物賃貸借契約において、反社会的勢力に対する契約解除条項が現在一般化しておりますが、その契約条項の効力については、これまで判決例もなく、不明確な状況にありました。
この点に関し、平成27年3月27日に最高裁判所において、市営住宅の賃貸借契約に関し、市の条例で定められている反社条例に基づき、賃借人に対して賃貸借契約の解除を行ったことについて、最高裁判所が有効と認める判決が出されました。
市営住宅の賃貸借契約は、社会福祉目的も加味された契約であるため、通常の民事上の賃貸借契約とは同一の性質とは言い難い面もありますが、最高裁が賃貸借契約の反社条項の有効性を明確にしたことは極めて重要であると考えられますので、以下のとおり紹介致します。
【2】事案の概要
【3】判旨
地方公共団体は、住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤であることに鑑み、低額所得者、被災者その他住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保が図られることを旨として、住宅の供給その他の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を策定し、実施するものであって(住生活基本法1条、6条、7条1項、14条)、地方公共団体が住宅を供給する場合において、当該住宅に入居させ又は入居を継続させる者をどのようなものとするのかについては、その性質上、地方公共団体に一定の裁量があるというべきである。
そして、暴力団員は、前記のとおり、集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員と定義されているところ、このような暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない。他方において、暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であり、また、暴力団員が市営住宅の明渡しをせざるを得ないとしても、それは、当該市営住宅には居住することができなくなるというにすぎず、当該市営住宅以外における居住についてまで制限を受けるわけではない。
以上の諸点を考慮すると、本件規定は暴力団員について合理的な理由のない差別をするものということはできない。したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反しない。
また、本件規定により制限される利益は、結局のところ、社会福祉的観点から供給される市営住宅に暴力団員が入居し又は入居し続ける利益にすぎず、上記の諸点に照らすと、本件規定による居住の制限は、公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らかである。したがって、本件規定は、憲法22条1項に違反しない。
そして、上記2(5)の事実関係によれば、上告人Y1は他に住宅を賃借して居住しているというのであり、これに、上記2(3)記載の誓約書が提出されていることなども併せ考慮すると、その余の点について判断するまでもなく、本件において、本件住宅及び本件駐車場の使用の終了に本件規定を適用することが憲法14条1項又は22条1項に違反することになるものではない。
【4】今回の判決について
今回の最高裁判決は、市営住宅の賃貸借契約に関する条例の有効性について争われているため、通常の民法上の賃貸借契約に関する判断はなされておらず、借地借家法との関係も判断されておりません。
しかし、公営住宅における反社条項の有効性が明確になったことは、借地借家法の適用される一般の賃貸住宅における賃貸借契約に定められている反社条項の有効性についても十分に認められる可能性があると考えられます。
したがって、今後、一般の賃貸住宅において反社条項に基づく契約の解除の有効性が争われる場合には、本判決で示された判断、内容を無視して審理することはできないと考えられますので、実務上も大いに参考になると考えられます。