【2】事案
適格消費者団体である原告が、不動産賃貸事業を営む被告に対して、(1)更新料の支払を定めた条項及び(2)契約終了後に明け渡しが遅滞した場合の損害賠償額の予定を定めた条項について、消費者契約法9条1号及び10条に該当するとして差し止め請求を求めたもの。
【3】判旨
- (1)更新料について
- I消費者契約法9条1号該当性
更新料は、更新後の契約期間の途中で賃貸人の責に帰すべからざる事由によって契約が終了した場合でも、更新料が返済されない旨が定められているからと言って、同条項をもって、契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項であるとすることはできず、本件更新料支払い条項が消費者契約法9条1号により無効であると認めることはできない。
- II消費者契約法10条該当性
更新料の支払を約する条項が賃貸借契約書に一義的且つ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に、更新料の支払を約する条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることはできず、消費者契約法10条に言う「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
- (2)倍額賠償予定条項
- I消費者契約法9条1号該当性
倍額賠償予定条項は、約定解除権又は法定解除権が行使されて契約が終了する場合のみならず、契約が更新されずに期間満了により終了する場合も含め、賃貸借契約が終了する場合一般に適用されるものであり、その条項条の文言としても、契約の解除ではなく契約が終了した日以降の明渡義務の不履行を対象としていることからすれば、倍額賠償予定条項は、契約が終了したにも拘わらず賃借人が賃借物件の明渡義務の履行を遅滞している場合の損害に関する条項であって、契約の解除に伴う損害に関する条項ではないため、消費者契約法9条1号の「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」とは言えず、倍額賠償予定条項について同号を適用することはできない。
- II消費者契約法10条該当性
予定される損害賠償額を、契約期間中において毎月支払うこととされていた賃料その他の付随費用の合計額を超える金額とすることは、賃貸人に生ずる損害の填補としての側面からも、また、契約終了時における明渡義務の履行を促進する機能としての側面からも相応しい合理性を有すると言うことができる。他方、消費者である賃借人にとっても、契約終了に基づく明渡義務という賃貸借契約における一般的義務を履行すれば、その適用を免れるのであるから賃料等の1か月分相当額を上回る損害金を負担することとなっても直ちに不合理とは言えない。
以上の諸点に鑑みると、建物賃貸借契約書に記載された契約終了後の目的物明渡義務の遅滞にかかる損害賠償額の予定条項については、その金額が上記のような賃貸人に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし不相当に高額であるといった事情が認められない限り、消費者契約法10条後段にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
【4】今回の判決について
今回の判決は、更新料支払い条項については、最高裁平成23年7月15日判決を踏襲したもので有ることが理解できると思います。しかし、倍額賠償予定条項と消費者契約法との関連については、過去に東京地裁において定期借家契約の契約終了時の倍額賠償予定条項に関する判決はありましたが、普通借家契約についてはまだ判決例がなく(なお、大阪地裁判決は契約解除の場合のみを定めたため、一般的な倍額賠償予定条項ではない)、判決が待たれていたところでした。
今回の東京地裁判決により、地裁レベルでは、物件の明け渡し遅延に伴う賠償条項については、賃料等の倍額であっても消費者契約法に違反しないことがほぼ確立されてきたと考えられますので、非常に参考になるのではないかと思います。