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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

最高裁平成22年7月20日弁護士法違反事件について

1 はじめに

不動産会社による賃借人の立ち退き交渉は、弁護士法違反に該当するのかそうでないのか判断に迷うところです。この点について、最近最高裁において、不動産会社による賃借人の立ち退き交渉が弁護士法72条に違反するという判決が下されましたので、弁護士法違反に該当するか否かの判断基準の参考材料として、ご紹介致します。

2 事実関係

不動産売買業等を営むA社(以下「A社」という。)は、ビル及び土地の所有権を取得し、当該ビルの賃借人らをすべて立ち退かせてビルを解体し、更地にした上で、同社が新たに建物を建築する建築条件付で土地を売却するなどして利益を上げるという事業を行っていた。
A社は、上記事業の一環として本件ビルを取得して所有していたが、同ビルには74名の賃借人が、その立地条件等を前提に事業用に各室を賃借し、それぞれの業務を行っていた。土地家屋の売買業等を営む被告人B社の代表取締役である被告人Cは、同社の業務に関し、共犯者らと共謀の上、弁護士資格等を有さず、法定の除外事由もないのに報酬を得る目的で、業として、A社から本件ビルについて上記賃借人らとの間で、賃貸借契約の合意解除に向けた契約締結交渉を行い、合意解除契約を締結した上で各室を明け渡させるなどの業務を行うことの委託を受けて、これを受任した。被告人らは、A社から被告人らの報酬に充てられる分と賃借人らに支払われる立ち退き料等の経費に充てられる分とを合わせた多額の金員を、その割合の明示なく一括して受領した。
そして被告人らは、本件ビルの賃借人らに対し、被告人B社が同ビルの所有者である旨虚偽の事実を申し向けるなどした上、賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、約10カ月にわたり、上記74名の賃借人関係者との間で、賃貸借契約を合意解除して賃貸人が立ち退き料の支払義務を負い、賃借人が一定期日までに部屋を明け渡す義務を負うこと等を内容とする契約の締結に応じるよう交渉して、合意解除契約を締結するなどした。

 

3 判旨

所論は、A社と各賃借人との間においては、法律上の権利義務に争いや疑義が存するなどの事情はなく、被告人らが受託した業務は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、同条違反の罪は成立しないという。しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため、全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。
そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったものであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。

 

4 立ち退き交渉と本判決について  

本最高裁判決は、不動産会社による賃借人との立ち退き交渉が、ビルの全賃借人の立ち退きを目的とする一括した受託であり、立ち退く意向を示していない賃借人との間での立ち退き合意の正否、立ち退きの時期、立退料の額に関する法的紛議が生ずることが不可避である案件については、弁護士法72条違反が成立するとの判断を示したものです。
このことから、不動産会社が個別に立ち退きの意向を示している賃借人との間で交渉する場合には法的紛議が生ずる恐れが無い限り弁護士法72条違反を問われない可能性を示しているとも考えられます。
したがって、今後、不動産会社において賃貸人から賃借人との立ち退き交渉を依頼された場合には本判決を参考にして弁護士法違反を問われないように慎重に立ち退き交渉を進めることが必要であると思います。

 

出典:裁判所ホームページ(http://www.courts.go.jp/

2010.08/03

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修