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弁護士・亀井英樹先生の法律ノウハウ

住生活基本法の施行と民間賃貸住宅への影響について

第1 住生活基本法について

 

1 住生活基本法及び住生活基本計画の施行
 住生活基本法が平成18年6月8日公布施行され、住生活基本法に基づき住生活基本計画が、平成18年9月19日閣議決定されました。
 住生活基本法とは、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体並びに住宅関連事業者の責務を明らかにするとともに、基本理念の実現を図るための基本的施策、住生活基本計画その他の基本となる事項を定めることにより、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進を図るとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です。
 そして、住生活基本法は従来住宅行政の基本法として定められた住宅建設計画法にとってかわるものであり、今後の、国の住宅政策の根幹をなす法律です。
 どうして、住生活基本法が今回新たに制定されたのかと言えば、これまでの住宅政策が、住宅建設計画法の下で住宅の「量」の確保を図ることを目的として進められてきたのであり、深刻な住宅不足の解消や居住水準の向上等を図ってきたのですが、住宅の量的な確保がある程度充足された一方で、少子高齢化の急速な進行や環境問題・資源エネルギー問題が深刻化する状況において、海外からウサギ小屋と称されるように住宅及び居住環境の「質」の確保はまだまだ未整備の状況にあり、国民の住生活の「質」の向上の確保が強く要請されるようになってきたためです。
 このように、住宅単体のみならず、居住環境を含む住生活全般の「質」の向上を図ると共に、フローの住宅建設を重視した政策から良質なストックを将来世代へ承継していくことを主眼とした政策に大きく返還するために、住生活基本法が制定されるに至ったのです。
 そして、住生活基本法に基づき、平成18年9月には住生活基本計画が作成され、平成27年までの具体的な計画案が策定されました。この住生活基本計画にはこれまでの国の住宅政策と異なり、明確に民間賃貸住宅についても踏み込んだ政策に関する記述が存在します。
 このため、今後は民間の賃貸住宅の経営においても、住生活基本計画を無視することができない側面が生ずるのではないかと思います。

2 住生活基本法の目的は以下のとおりです。


(1)現在及び将来における国民の住生活の基盤となる良質な住宅の供給等
 住生活基本法では、第1に、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、我が国における近年の急速な少子高齢化の進展、生活様式の多様化その 他の社会経済情勢の変化に的確に対応しつつ、住宅の需要及び供給に関する長期見通しに即し、かつ、居住者の負担能力を考慮して、現在及び将来における国民 の住生活の基盤となる良質な住宅の供給、建設、改良又は管理(以下「供給等」という。)が図られることを旨として、行われなければならない、と定めており ます。(3条)

(2)良好な居住環境の形成
 第2に、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、地域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、環境との調和に配慮しつつ、住民が誇りと 愛着をもつことのできる良好な居住環境の形成が図られることを旨として、行われなければならない、と定めております。(4条)

(3)居住のために住宅を購入する者等の利益の擁護及び増進
 第3に、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、民間事業者の能力の活用及び既存の住宅の有効利用を図りつつ、居住のために住宅を購入す る者及び住宅の供給等に係るサービスの提供を受ける者の利益の擁護及び増進が図られることを旨として、行われなければならない と定めております。(5 条)

(4)居住の安定の確保
 第4に、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進は、住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤であることにかんがみ、低額所得 者、被災者、高齢者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保が図られることを旨として、行われなければならない、 と定めております。

3 住生活基本法の基本的施策

(1)住宅の品質又は性能の維持及び向上並びに住宅の管理の合理化又は適正化
 上記の目的を受けて、住生活基本法は、基本的施策として、第1に国及び地方公共団体は、国民の住生活を取り巻く環境の変化に対応した良質な住宅の供給等が 図られるよう、住宅の地震に対する安全性の向上を目的とした改築の促進、住宅に係るエネルギーの使用の合理化の促進、住宅の管理に関する知識の普及及び情 報の提供その他住宅の安全性、耐久性、快適性、エネルギーの使用の効率性その他の品質又は性能の維持及び向上並びに住宅の管理の合理化又は適正化のために 必要な施策を講ずるものとする、と定めております。(11条)

(2)地域における居住環境の維持及び向上
 基本的施策の第2として、国及び地方公共団体は、良好な居住環境の形成が図られるよう、住民の共同の福祉又は利便のために必要な施設の整備、住宅市街地に おける良好な景観の形成の促進その他地域における居住環境の維持及び向上のために必要な施策を講ずるものとする、と定めております。(12条)

(3)住宅の供給等に係る適正な取引の確保及び住宅の流通の円滑化のための環境の整備
 基本的施策の第3として、国及び地方公共団体は、居住のために住宅を購入する者及び住宅の供給等に係るサービスの提供を受ける者の利益の擁護及び増進が図 られるよう、住宅関連事業者による住宅に関する正確かつ適切な情報の提供の促進、住宅の性能の表示に関する制度の普及その他住宅の供給等に係る適正な取引 の確保及び住宅の流通の円滑化のための環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする、と定めております。(13条)

(4)居住の安定の確保のために必要な住宅の供給の促進等
 第4の基本施策として、国及び地方公共団体は、国民の居住の安定の確保が図られるよう、公営住宅及び災害を受けた地域の復興のために必要な住宅の供給等、 高齢者向けの賃貸住宅及び子どもを育成する家庭向けの賃貸住宅の供給の促進その他必要な施策を講ずるものとする、と定めております。(14条)

4 住宅関連事業者の責務

 住生活基本法においては、民間の住宅関連事業者も対象として規定されております。 すなわち、

(1)住宅の供給等を業として行う者(以下「住宅関連事業者」という。)は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たって、自らが住宅の安全性そ の他の品質又は性能の確保について最も重要な責任を有していることを自覚し、住宅の設計、建設、販売及び管理の各段階において住宅の安全性その他の品質又 は性能を確保するために必要な措置を適切に講ずる責務を有する、と定め、民間の住宅関連事業者についても住生活基本法においては住宅の安全性又は一定の品 質・性能を確保するための責務を負うものと定められております。

 従って、民間の賃貸住宅の管理会社や、賃貸人も住宅関連事業者として、今後は住生活基本法にもとづき、住宅の安全性や品質・性能を確保するための責務を課せられる場合が生じることが予想されます。

(2)そして、住宅関連事業者は、基本理念にのっとり、上記の他、その事業活動を行うに当たっては、その事業活動に係る住宅に関する正確かつ適切な情報 の提供に努めなければならない、と定められており、今後は、住生活基本法上、住宅に関する正確・適切な情報提供義務を課せられる場合が出てくることも予想 されます。

5 住生活基本計画の作成


 そして、住生活基本法は、上記基本施策を現実に実施するために、政府は、基本理念にのっとり、前章に定める基本的施策その他の住生活の安定の確保及び向上 の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画(以下「全国計画」という。)を定 めなければならない、と定めております。(15条)

 この結果、平成18年9月には、住生活基本計画が閣議決定されました。住生活基本計画の詳細については、ホームページでご確認頂ければと思いますが、それ ぞれの目標に即して具体的な指標が定められ、平成18年度から平成27年までに設定された目標の達成を目指すものとなっております。

 そして、その目標及びその目標を達成するための基本的な施策の中には民間の賃貸住宅にも強く影響を及ぼすと考えられるものも含んでおります。このため、住 生活基本計画については、国の政策であり民間とは無関係であると考えることなく、その内容を十分に確認検討しておく必要があるのではないかと思います。

 

第2 住生活基本計画の民間賃貸住宅への影響について

 

【1】良質な住宅ストックの形成及び将来世代への承継のうち

(1)住宅の品質又は性能の維持及び向上として、民間賃貸住宅にも影響があると考えられるのは、下記の施策があげられます。
○耐震性、防火性及び採光性の確保、化学物質等による室内汚染の防止等住宅の基本的な品質又は性能を確保するため建築規制を的確に運用する。
○大規模な地震や犯罪の危険性に備え、国民の安全・安心を実現するため、耐震診断・耐震改修を促進するとともに、住宅の防犯性向上のための情報提供等を行う。

(2)住宅の合理的で適正な管理等として、民間賃貸住宅にも影響があると考えられるのは下記の施策があげられます。
○民間賃貸住宅について、合理的かつ適正な維持管理を促進するための仕組みづくりを進める。

【2】
良好な居住環境の形成については、直接民間賃貸住宅に影響を及ぼす施策は認められませんが、居住環境や住宅市街地の整備が進めば、民間の賃貸住宅に大きな影響を及ぼす場合もあることは予想されます。

【3】多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備としては、下記の施策が民間賃貸住宅にも影響があると予想されます。

○賃貸住宅市場における標準ルールの普及等を通じて住宅に関するトラブルの未然防止を図るとともに、指定住宅紛争処理機関による住宅に係る紛争の処理等、トラブルを円滑に処理するための仕組みの普及・充実を図る。
○持家、借家を問わず無理のない負担で居住ニーズに応じた質の高い住宅が確保できるよう、長期・固定型等の多様な住宅ローンが安定的に供給される住宅金 融市場の整備、税制上の措置、定期借地制度の活用の促進、定期借家制度の活用等を含めた良質な賃貸住宅の供給の促進等を行う。
○既存住宅の管理状況等を考慮した合理的な価格査定及び管理状況や不動産の個別の取引価格に関する情報の提供を促進するとともに、定期借家制度の活用等による持家の賃貸化等を促進する。

【4】住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保としては、下記の施策が民間賃貸住宅にも影響を及ぼすと予想されます。

○既存ストックの有効活用を図りつつ、公営住宅制度を補完する重層的な住宅セーフティネットの構築を図るため、各種公的賃貸住宅制度の一体的運用やストック間の柔軟な利活用等を円滑に行うための仕組みづくりを進める。
○高齢者、障害者、小さな子どものいる世帯、外国人、ホームレス等の居住の安定を確保するため、公的賃貸住宅ストックの有効活用を図るほか、高齢者等の入居を受け入れることとしている民間賃貸住宅に関する情報の提供等を行う。

【5】その他、住生活基本計画には、住宅性能水準、居住環境水準、誘導居住面積水準、最低居住面積水準が定められており、これらはいずれも今後賃貸住宅を 建設しようとする上で大きな影響を及ぼす基準になることは間違いありません。したがって、今後も安定的且つ高い商品価値を維持できるような賃貸住宅を建設 するためには、住生活基本計画に定められている指標や基準も参考にすることが不可欠になるものと考えられます。

【6】結語
 以上のとおり、住生活基本法及びこれに基づく住生活基本計画は、民間賃貸住宅に対しても今後大きな影響を及ぼす施策や基準を盛り込んでいると考えられますので、これを機会に是非とも研究して、今後の賃貸住宅の経営に役立てて頂ければと思います。

2006.10/31

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亀井英樹(かめいひでき)
東京弁護士会所属(弁護士)
昭和60年中央大学法学部卒業。平成4年司法試験合格。
平成7年4月東京弁護士会弁護士登録、ことぶき法律事務所入所。
詳しいプロフィールはこちら ≫

【著 作 等】
「新民事訴訟法」(新日本法規出版)共著
「クレームトラブル対処法」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「管理実務相談事例集」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修
「賃貸住宅の紛争予防ガイダンス」((公財)日本賃貸住宅管理協会)監修